麻薬取締官が辿り着いた麻薬組織にはかつての戦友が居た・・・「地獄の用心棒」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

ニッポン・ノワールⅢ より

 

製作:日活

監督:古川卓巳

脚本:浅野辰雄 古川卓巳

撮影:中尾利太郎

美術:松山崇

音楽:田村しげる

出演:河津清三郎 三國連太郎 菅井一郎 千秋実 山本和子

         長谷川菊子 石黒達也 二本柳寛 金子信雄 殿山泰司

1955年3月11日公開

 

麻薬取締官の北川(河津清三郎)は、横浜周辺に於ける麻薬密売の実態を探るべく、所轄署の伊藤刑事(千秋実)と協力しながら調査を始めます。北川はブラックリストに載る人物の写真を見せられ、その内の1枚にかつて戦友だった植田(三國連太郎)が写っているのを目に留めます。

 

植田は今では横浜の麻薬密売団の用心棒として名を馳せていました。北川は麻薬撲滅と共に、戦友を悪の沼から救い出したい想いから、単身魔窟に潜入して、麻薬の出所を突きとめようとします。

 

彼はヤミ屋に扮し、ハマの盛り場や港附近をうろついたおかげで、麻薬を売る男がいると言う情報を得た末に、植田の元に辿り着きます。その日から北川は、一味のアジトであるキャバレー・ルビーの二階に泊りながら、探りを入れて行きました。やがて北川は、麻薬組織は亀山(菅井一郎)というボスが仕切っていること、植田は彼の用心棒で麻薬中毒に冒されていることを知ります。

 

ある日、植田は麻薬を切らして苦しみ、亀山のところへ自分の分を分けてもらいに行きます。しかし、亀山は得体の知れぬ北川を追い出すよう要求します。植田は昔の友情にほだされて、北川を切れずに悩みます。やがて、麻薬の供給源は三国人(殿山泰司)らしいことが明らかになり、北川たちは大きな取引を仕掛け、麻薬組織を一網打尽にしようとするのですが・・・。

 

普段悪役で鳴らす河津清三郎が麻薬取締官なのは珍しい役柄です。一応彼が主役の映画ですが、三國連太郎の灰汁の強い芝居に目を奪われてしまいます。禁断症状に襲われた際の涎を垂らしながら、麻薬を欲する描写は真に迫るものがあります。また、彼が所かまわず唾を吐くのは、麻薬中毒者を想定した演技プランなのかもしれません。三國と言えば後に「白い粉の恐怖」で麻取の捜査官を演じていましたが、全く逆の立場の役柄が興味深かったです。

 

役者陣に関して言えば、植田のボスにあたる菅井一郎がやくざ者の貫禄を見せ、千秋実は食えない刑事を味わい深く演じる一方、バーテンダー役の金子信雄や怪しい中国人ブローカーの殿山泰司にこれと言った見せ場がなかったのは残念でした。また、話が単調で退屈に感じられるのも映画にはマイナス。特に麻薬取締官の潜入捜査にも関わらず、いつ正体がばれるか?と言う緊張感が感じられないのが致命傷です。

 

僅かに花売り娘に正体がばれた時に、ややサスペンスが感じられたものの、最終的に打ち明ける相手が戦友の植田では、話の流れから北川の身に危険が及ぶとは考えられません。尤も、映画自体は潜入捜査におけるハラハラドキドキ感より、かつて戦友だった北川と植田の友情物語の色が濃いため、スリルとサスペンスに重きを置いているのではないと言われればそれまでですが・・・。

 

個人的にこの映画で見どころだったのは、組織を一斉検挙するために、麻薬の大口取引をセッティングする過程。北川の他にもう一人別の捜査官(石黒達也)を送り込ませ、警察のサポートが入りつつ、怪しまれぬよう下準備を進めて行く様子は興味深く観られました。思い入れのある人物をやくざの世界から足を洗わせようとする点では、黒澤明の「酔いどれ天使」との共通性があり、それを想起させる描写も見受けられます。そして、友人を救えずに己の無力さを痛感するほろ苦さも同様でした。