売れない女優と駆け出し弁護士が罪をでっちあげ一攫千金を狙う「私がやりました」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

私がやりました 公式サイト

 

チラシより

有名映画プロデューサーが自宅で殺された。容疑者は、売れない新人女優マドレーヌ。プロデューサーに襲われ、「自分の身を守るために撃った」と自供する彼女は、親友で駆け出しの弁護士ポーリーヌと共に法廷へ。鮮やかな弁論と感動的なスピーチで陪審員や大衆の心をつかみ、正当防衛で無罪を勝ち取る。それどころか、「悲劇のヒロイン」として一躍時の人となり、大スターの座へと駆け上がっていく。ところが、そんなある日、二人の前にオデットという女が現れる。プロデューサー殺しの真犯人は自分で、マドレーヌたちが手にした富も名声も、自分のものだというのだ。こうして、女たちによる「犯人の座」をかけた駆け引きが始まる--。

 

製作:フランス

監督・脚本:フランソワ・オゾン

撮影:マニュエル・ダコッセ

美術:ジャン・ラバッセ

音楽:フィリップ・ロンビ

出演:ナディア・テレスキウィッツ レベッカ・マルデール イザベル・ユペール

        ファブリス・ルキーニ ダニー・ブーン アンドレ・デュソリエ

2023年11月3日公開

 

本作は犯罪喜劇の様相を呈していますが、時代設定を1935年にしたことが、後々効いてきます。この時代は1929年の米国に端を発した世界恐慌から脱しておらず、欧州もご多聞に漏れずその余波が続いていました。映画界に目を転じれば、サイレント映画からトーキーに移っていた時期でもあり、サイレント時代ではスタアだった俳優も、トーキーになってからは鳴かず飛ばずになったスタアも少なくありませんでした。

 

マドレーヌとポーリーヌもそうした不況の波を受けたのかは定かではありませんが、二人は同居しているアパートの家賃を溜め込み、家主から今にも追い出されそうな状況にありました。そんな中で、売れない新人女優のマドレーヌがプロデューサーに仕事がもらえそうと思って屋敷を訪ねたところ、役と引き替えに犯されそうになり、這う這うの体でアパートに帰ってきます。

 

それから暫くして刑事が二人の部屋を訪れ、プロデューサーが殺されたことを告げます。この刑事との遣り取りから、観客にはマドレーヌが殺していないことが分かるのですが、ポーリーヌはこの殺人事件を逆手に取って、一攫千金を狙う賭けに出ます。

 

無名のマドレーヌが犯人と名乗り出ることで、彼女は世間から注目を浴び、無罪放免になった暁にはマドレーヌは映画界や劇場からお呼びがかかり、ポーリーヌも悲劇のヒロインを救った弁護士として名声を得て仕事が舞い込むという皮算用があります。下手をすればマドレーヌは冤罪で監獄行きとなる、かなり危険な賭けなのですが、失う物のない彼女たちは大勝負に打って出ます。

 

一方、司法の側は注目を集める裁判だけに、慎重に下準備を進めて行きます。ラビュセは無能を絵に描いたような判事で、判事の友人であるパルマレードまで疑おうとします。パルマレードはプロデューサーが殺されたことで利益を得る立場にいるため、念のため取り調べをするのは良いのですが、自分が証人となって友人のアリバイを証明できると分かっているのに、しつこく尋問するくだりはそこはかとないナンセンスなユーモアが漂ってきます。また、ラビュセ判事とその助手との会話も、漫才を見ているかのような丁々発止の遣り取りで笑わせてくれます。

 

マドレーヌにはアンドレという恋人がいるのですが、彼は大富豪の息子ながら親のスネ齧りでまともに働こうとせず、とてもマドレーヌと結婚できる状態にありません。アンドレは親の持ってきた金持ち女との縁談に乗り気で、でもマドレーヌには未練があるため、結婚した後も彼女と逢引きしようとするロクでなしの男です。マドレーヌもそうした彼の気持ちを知り、一度は別れるのですが、裁判が終わった後に縁りを戻すのはどうよ?と思ってしまいます。一応、裁判での彼女の健気な姿を目にして、改心した様子も見せるので、そこは許容範囲かなとも思えるのですが・・・。

 

やがて裁判が始まり、検事の意地悪な質問に、ポーリーヌが遣り返すという応酬が繰り広げられます。ここで、マドレーヌの職業が活きてきます。彼女はポーリーヌの筋書き通りに、“悲劇のヒロイン”を演じ陪審員と聴衆の心を掴んでいきます。この裁判の場面は、ややポリコレが鼻につく描写も見受けられますが、マドレーヌとポーリーヌの同性愛疑惑を仄めかす検事に対して、毅然と立ち向かい啖呵を切るポーリーヌの男前の振る舞いに痺れます。

 

裁判はポーリーヌの思惑通りに無罪を勝ち取り、マドレーヌも世間の注目を集めたことで、続々と仕事の依頼が舞い込みます。その矢先、プロデューサーを殺した張本人のオデットが二人の前に現れます。彼女はサイレント映画時代にはスタアの座に就きながら、トーキーに変わった途端活躍の場を失い、スタアの座に返り咲く機会を窺っていました。ところが、自身が手を汚したにも関わらず、若手の無名女優が手柄を掻っ攫い脚光を浴びたのですから、面白かろう筈がありません。

 

オデットは犯罪を証明する重要証拠を握っており、本来自分が得る筈の30万ドルと、自身に相応しい役を二人に要求してきます。要求を吞まなければマスコミに訴えると脅してくるため、マドレーヌとポーリーヌは窮地に陥ります。このオデットの要求を、二人がどのように解決していくかが、本作の終盤の見どころとなっています。この難題に対して、マドレーヌが判事の友人であるパルマレードを巻き込むのが巧いです。マドレーヌの工作にパルマレードが意外な反応を見せる辺りは意表を突いて面白いですが、彼女がポーリーヌ以上にしたたかな面を見せるのも痛快です。

 

マドレーヌと息子の結婚に反対する父親のボナールを、パルマドーレを介しての“取引”によって懐柔し、引いてはオデットへ渡す30万ドルにも繋がるのですから、マドレーヌの策略には舌を巻いてしまいます。この映画では主要人物が全てウィンウィン状態になり、難題に対する解決の落としどころに、作り手の洒落たセンスを感じさせます。その一方で、本編が終了した後のエピローグで、登場人物たちのその後を伝える部分には、全てが巧く行く訳ではないよという辛辣さも含まれているのは気が効いていました。

 

本作にはツッコミどころがない訳ではないですが、これだけ洒落た演出をし、且つブラックユーモアを醸しながら面白い喜劇を見せられたら、文句を言うのは野暮というもの。この手の映画にエロは全く期待していなかったのに、マドレーヌ役のナディア・テレスキウィッツはパイオツを見せてくれますし、ポーリーヌ役のレベッカ・マルデールも際どいショットがあり、ボンクラ野郎としてはこの点も好印象を抱きましたよ(笑)。