天知茂の残忍なやくざが見もの 「暁の非常線」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

復活!玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:小森白

脚本:金田光夫

撮影:岡田嘉外

美術:小汲明

音楽:長瀬貞夫

出演:天知茂 和田孝 沼田曜一 三ツ矢歌子 小倉繁 横山運平 舟橋元 大原譲二

1957年10月1日公開

 

深夜の東京に銀行強盗が跳梁していました。しかも、金を奪うばかりか、無抵抗の行員まで射殺する凶悪な手口でした。原口警部(舟橋元)率いる特捜班の捜査にも関わらず、手懸かりをつかめません。

 

犯人一味は関東三ノ輪一家の幹部馬島(天知茂)が指揮するグループ。馬島は三ノ輪一家の代貸を務める一方で、支配人としてキャバレー「モナコ」を根城に銀行強盗を働き、奪った金で一家に多額の上納金を納めていました。

 

三ノ輪一家の跡取りの健一(和田孝)はやくざを嫌って堅気になっているため、総長(横山運平)は傾いた一家の屋台骨を支えるため、娘の雪江(三ツ谷歌子)を馬島と結婚させて跡目を継がせようとしていました。

 

そんなある日、銀行襲撃の帰途、馬島はパトロール中の警官を撃った際、自動車のナンバーを控えられた上に「モナコ」のマッチも落してしまいます。馬島は警察に察知される前に、情婦のまさみ(保坂光代)もろとも車を崖から落として証拠隠滅を図ります。

 

一方、新聞記者の木村(沼田曜一)は健一と友人だったことから原口警部に会わせ、彼の口から崖から落ちた車の持ち主が「モナコ」のマダムだったことを伝えさせます。更に女の手に“竜”の彫られたカフスボタンが握られており、健一が同じボタンを馬島がつけていたと証言します。

 

その頃、馬島は雪江を拉致してアジトに連れ去り、木村もその場所に監禁され拷問を受けていました。馬島は新聞でカフスボタンが発見されたことを知るや、手下に命じて“竜”のカフスボタンのついた上着を回収するよう命じます。そこに張り込んでいた刑事たちは手下を尾行して、アジトの場所に向かうのですが・・・。

 

本作では何と言っても馬島を演じる天知茂の残忍ぶりが見ものです。おまけに、やくざのくせに銀行強盗はどうなのよ?と思わずツッコミを入れたくなります。

 

三ノ輪一家の総長も、馬島の上納金に目が眩んだのか、叔父貴にあたる村川(横山運平)の忠告も聞かず、自分の娘を差し出して跡目を継がせるのも、人を見る目がないねぇと思わずにいられません。

 

ただし、馬島も用心深い上に狡猾なところがあり、なかなか相手に尻尾を掴ませません。邪魔な村川を事故に見せかけて殺し、警察が情婦のまさみをマークする前に彼女を始末し、逃走用の車に領事館ナンバーを偽装するなど、頭の切れるやくざの印象を与えます。

 

緊急事態に対しての対応も、警察に包囲され逃げ場がないと見るや、水路に飛び込んだ後に手下の乗るボートを爆破させてそちらに注意を逸らせ、霊柩車で目的地の港まで向かうなど臨機応変な行動を見せます。

 

これだけタフなやくざの印象を与えておきながら、最後はみっともない振る舞いをする点も、それまでの尊大さとの落差が感じられて楽しめます。

 

馬島の残忍なやくざとは対照的に、沼田曜一演じる木村の好青年ぶりも面白いです。沼田が三ツ矢歌子の恋人という設定も何気なくツボに嵌りますが、天知が沼田の恋人の体を奪おうとする構図も、日頃の沼田の粘着質な悪役を観てきている者にとっては、配役が逆じゃないの?と思いつつニヤニヤしたくなります。

 

また、やくざの息子が警部の妹(野々村律子)と恋仲で、兄が警察官の立場上結婚を認められない設定も、最後に伏線が回収され大団円になる点も巧みと言えます。映画の中で散々馬島の悪辣な所業を見せられてきただけに、非常に気持ち良い終わり方でした。