奇跡を起こす囚人は果たして極悪人なのか?「グリーンマイル」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督・脚本:フランク・ダラボン

原作:スティーヴン・キング

撮影:デヴィッド・タッターサル

美術:テレンス・マーシュ

音楽:トーマス・ニューマン

出演:トム・ハンクス デヴィッド・モース マイケル・クラーク・ダンカン

         ボニー・ハント サム・ロックウェル

2000年3月25日公開

 

老人ホームの娯楽室でフレッド・アステア主演の「トップ・ハット」を見ていたポール・エッジコムは、居たたまれずにその場を立ち去ります。ポールの様子を心配した同じ入居者の女性に対し、彼は60年前の出来事を語っていきます……。

 

1935年、ジョージア州コールド・マウンテン刑務所の看守主任ポール(トム・ハンクス)は、死刑囚舎房Eブロックの責任者でした。当時、死刑囚が電気椅子まで最後に歩む緑のリノリウムの廊下はグリーンマイルと呼ばれていました。部下は副主任のブルータル(デヴィッド・モース)を始め信頼のおける仲間たちでしたが、州知事の甥である新人パーシー(ダグ・ハッチソン)だけは傍若無人に振る舞い、同僚たちから嫌われていました。

 

そんなある日、大男の黒人ジョン・コフィー(マイケル・クラーク・ダンカン)がやってきます。彼は幼女姉妹を殺害した罪で死刑を宣告されており、刑務官たちに緊張が走ります。しかし、彼はポールの尿道炎を治したのを皮切りに、同房のドラクロア(マイケル・ジェッター)が飼っていたネズミのミスター・ジングルズをパーシーが踏み潰したにも関わらず生き返らせます。

 

その頃、厄介者の凶悪犯ウォートン(サム・ロックウェル)がEブロックに移り、数々のトラブルを起こしていました。パーシーはウォートンに捕らわれた際に失禁する失態を犯し、それを目にしたドラクロアが嘲笑ったことから彼に恨みを抱きます。パーシーはその意趣返しに、ドラクロアの処刑時に細工を施して、彼を苦しめながら電気椅子で焼き殺しました。ポールはパーシーの細工に気づいたものの、既に手遅れで、失禁の口止めの代わりにパーシーに異動願を書かせます。

 

コフィーの奇跡を目の当たりにしたポールたちは、パーシーを拘禁室に閉じ込めた上で、コフィーをひそかに外へ連れ出し、刑務所長ムーアズ(ジェームズ・クロムウェル)の妻で脳腫瘍によって死の床にあったメリンダ(パトリシア・クラークソン)の命を救おうとします。ところが、コフィーを牢屋から出した途端、隣の牢屋で眠っていた筈のウォートンがコフィーの腕を掴んできます。その途端、コフィーはウォートンの秘密の悪行を知り蒼ざめます・・・。

 

封切り時に観たきりにしては、結構憶えていたことに我ながら驚きました。それだけ印象に残る場面が多く、トム・ハンクスを始め、彼の片腕となって働くデヴィッド・モース、嫌われキャラのダグ・ハッチソン等、俳優陣が地味ながらもそれぞれ役に嵌った芝居をしたからでしょう。また、スティーヴン・キングの原作を封切り以前に読んでいた者でも、十分納得させるだけの演出をしたフランク・ダラボン監督の功績も大きかったように思います。

 

刑務所映画はあまたありますが、他の作品と雰囲気がやや異なるのは、死刑囚ばかりが集められた刑務所が舞台になっている点もあります。刑務官も囚人を更生させるのを目的とはしていない分、刑が執行されるまでなるべく安らかな気持ちで過ごせるよう心掛けています。そんな刑務官たちの心遣いも、囚人の中には無にする者がいて、同僚にもパーシーのような問題児がいるので、現場の責任者のポールは苦労が絶えません。

 

パーシーは囚人のみならず職場の仲間からも忌み嫌われる存在で完全に浮いています。所長を始め刑務官たちは彼を追い出したいのですが、知事の甥っ子のため無碍にすることもできません。同じ職場に居たら絶対関わり合いたくありませんが、彼の愚かな行動の数々は確実に物語を面白くしています。

 

ポールは尿道炎に悩まされており、刑務所長の妻が脳腫瘍を患っていることに心を痛めてもいます。そんな状況下で、大男のコフィーがE棟に入所してきます。最初は警戒していたポールも、コフィーが次々と奇跡を起こすのを目の当たりにしたことで、彼に抱いていた印象が一変します。

 

コフィーの起こした“治療”によって、ポールや刑務所長の問題が解決する一方で、ポールはコフィーが幼い姉妹を殺害したとは思えなくなります。その後、彼はコフィーが無実である決定的な証拠を突きつけられ、冤罪と分かっていながら刑を執行せねばならぬ板挟みになります。

 

本作は物事の決断を迫られたり、落とし前をつけねばならなかったりと、様々な局面で登場人物たちの覚悟が試されます。どの人物たちも観る者にとって合点が行く行動を取るところが、この映画の最大の美点でもあります。

 

また間接的にせよ、非道な振る舞いをしてきたパーシーやウォートンに関しても、説得力のある落とし前のつけ方が絶妙でした。こうした点を踏まえて、最終的にポールがコフィーに対してどのような落としどころに持って行くかに興味が湧いてきます。

 

ポールが奇跡を起こす“神の使い”を殺めることは避けられず、彼は罪の意識に駆られます。その後、ポールは罪を背負っていくことになりますが、罪を贖う匙加減が巧いです。スティーヴン・キングの小説は語り口が巧いことから、映画化された作品も多いです。その中でも「グリーンマイル」は上位に来る映画です。3本選ぶとなると迷いますが、5本ならば確実に入ると言うのが現時点での私の評価です。