馬賊の兄弟が清朝の末裔と称する娘を巡って対立する「荒原の掠奪者」を観て | パンクフロイドのブログ

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毎年恒例の新東宝の特集が今年もシネマヴェーラ渋谷で開催されました。今回は全て未見の作品が上映され、なるべく多く観ようと思ったのですが、なかなか都合がつかず、4本だけに留まりました。

 

シネマヴェーラ渋谷

復活!玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:下村堯二

脚本:山内亮一 下村堯二

原作:森川哲郎

撮影:吉田重業

美術:朝生治男

音楽:松村禎三

出演:宇津井健 松原緑郎 藤田進 万里昌代 瀬戸麗子

        中野かほる 大友純 五月藤江 高村洋三

1961年5月3日公開

 

蒙古の大草原に黒衣馬賊と白衣馬賊が対立していました。黒衣の頭目月明秋(藤田進)は、若い頃に日本から渡って馬賊の頭目の娘と結婚し、現在は鉄之助(宇津井健)、峯之助(松原緑郎)という二人の子が居ました。ある日鉄之助は傷を負った女を救います。彼女は清朝の末裔の李白光(万里昌代)と名乗り、父が隠した財宝を探る白衣馬賊に狙われていると打ち明けます。

 

月一家は他国の女を入れないという掟があり、李白光を匿いたい兄の鉄之助とそれに反対する弟の峯之助が対立します。峯之助は事ある毎に鉄之助に反抗しており、兄の許婚の白秋花(瀬戸麗子)さえ強引に奪っていました。彼は鉄之助に好意を寄せる李白光も襲いますが未遂に終わります。そんな折、鉄之助は李白光との結婚を父に申し出て反対されてしまいます。そんないざこざの中、白衣馬賊が押し寄せてきます・・・。

 

賢兄愚弟の兄弟が最後に和解するのか?それとも対立したままで終わるのか?ラスト近くになるまで予測できませんでした。本作では主役の宇津井健より、弟役の松原緑郎が目立っていました。彼の数々の愚かな行為は、ダメンズ好きにとって大好物でもあり、正義感の強い宇津井のキャラクターと好対照を為しています。

 

とは言え、松原演じる峯之助は、兄の助けた女をスパイの疑いがあると言って一緒に住まわせるのを拒否する点は、危機管理という点では至極真っ当な判断であながち間違いではありません。殊に父親の明秋が逃げ込んできた女を怪しまず受け入れた末に敵の罠に嵌った前科があるだけに、兄の甘い考えに異を唱えるのは当然と言えます。

 

更に言うと、父親の判断ミスによって母親は敵の辱めを受け、その結果峯之助が生まれ、彼は鉄之助とは異父兄弟として育てられた経緯があります。こうした経緯から、峯之助は母親のみに愛情を感じ、父親と兄には冷淡な対応を取り、兄の許婚の白秋花まで奪います。尤も劇中の会話では兄が許婚を弟に譲った発言もあるので、それはどうよ?と鉄之助に問い質したくなります。

 

そんな兄弟間の軋轢から弟は兄に銃を向け、身を挺して長男を庇おうとした母親が、次男に撃たれる悲劇が起きます。最愛の母親を自分の手で殺めた峯之助は、母親を失った哀しみと共に、兄への憎しみが一層募ります。こうした話の流れから、峯之助が自ら過ちを認め、兄と和解するのはかなり困難と思わせます。

 

ところが、李白光を間に挟んでの三角関係から、白秋花を交えての四角関係の様相を呈する終盤辺りから、徐々に状況が変わり始めます。更にバラバラの状態だった4人が敵襲によって、一致団結して敵に立ち向かうことで、彼らの関係性も完全に転換します。ただし、多勢に無勢であるのに加え、鉄之助は既に深手を負って動けない状態。女二人が気丈に銃で反撃しても、いずれ弾は尽きる運命にあります。

 

その時に、峯之助は女たちに弾を一発だけ残して、撃ち尽くすよう指示します。この言葉の意味するものは重いです。敵に捕まれば何をされるか分からない恐怖があり、死ぬより辛い目に遭うよりは、自ら命を絶つほうがマシと考えてもおかしくはありません。我々現代人は得てして歴史を現在の基準に置き換えて考えがちになりますが、当時の状況を鑑みて判定しないと、誤った歴史観に陥りやすいのではないでしょうか?

 

それはともかく、絶体絶命の状況から救いの手が差し伸べられる展開は、ジョン・フォードの「駅馬車」を想起したくなります。ここから一気に大団円へと向かい、冗長に思えた鉄之助を看護する場面も、峯之助の心変わりに説得力を持たせる点では必要だったとも思えてきます。ただ一点、財宝の在処を巡る件を投げっぱなしのままに終わるのが解せませんでしたね。これも金より大切な人の絆があるというメッセージだったと好意的に受け取っておきましょうか(笑)。