芸達者を揃えたいぶし銀の時代劇 「仕掛人 藤枝梅安」を観て | パンクフロイドのブログ

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仕掛人 藤枝梅安 公式サイト

 

製作:「仕掛人 藤枝梅安」時代劇パートナーズ

監督:河毛俊作

脚本:大森寿美男

原作:池波正太郎

撮影:南野保彦

美術:吉澤祥子

音楽:川井憲次

出演:豊川悦司 片岡愛之助 菅野美穂 小野了 高畑淳子 

         小林薫 早乙女太一 柳葉敏郎 天海祐希

2023年2月3日公開

 

仕掛人の藤枝梅安(豊川悦司)は、久留米藩士の妻・お香(中村ゆり)に懸想した御用取次役・伊藤彦八郎(石丸謙二郎)を仕掛けた後、仕掛人でもある楊枝作りの職人・彦次郎(片岡愛之助)の家に泊まり、翌朝の帰り道、浪人・石川友五郎(早乙女太一)が刺客を斬り捨てる場面を目撃します。

 

その後、梅安は元締めである羽沢の嘉兵衛(柳葉敏郎)から料理屋・万七の内儀おみの(天海祐希)の仕掛を依頼されます。三年前、万七の前の女房おしずを仕掛けたのは梅安だったため、彼は少なからぬ因縁を感じます。

 

梅安は仕掛の準備のために万七の女中おもん(菅野美穂)と深い仲になり、店の内情を聞き出します。おもんの話では、おしずの死後、おみのが内儀になってから、古参の奉公人たちが次々と去り、見栄えの良い女中を雇い入れては客をとらせ、店の評判は落ちているのに儲けだけはあると言います。

 

梅安はおしず殺しの依頼人がおみのだったのか気にかかります。殺しの起り(依頼人)の身元を探るのは、仕掛人の掟に反すると知りながら、三年前の経緯を知りたいと思い始めます。やがて、おみのと対面した梅安は、彼女の顔を目にして自身の暗い身の上を思い出すのです・・・。

 

実は、本作と「銀平町シネマブルース」のどちらを観るか迷いました。どちらも地元のシネコンでは既に1日1回の朝一番の上映のみになっていて、翌週には終了になる状況でした。心情的には池波正太郎原作の映画に傾いていたものの、近年の時代劇は信用できないこともあり、観るのを躊躇っていました。題名を英語にしている時代劇もありますし・・・。ただ、配役を見ると結構期待できそうで、最終的にこちらを選んびました。

 

実際鑑賞してみると、作り手が原作者の意図を十分踏まえて撮っていることに嬉しくなりました。池波正太郎は常々エッセイの中で、人は悪事を働きながら善行を施す矛盾を語っていましたが、この映画も原作者の哲学を貫いています。事が一件落着した後に、梅安が最後に仕留める人物は、裏の顔を隠していた点では一番の悪党に思えてくるからです。

 

映画では梅安がおみのを仕掛けるまでの話を軸に展開されますが、様々な因縁が絡み合い、一見関係なさそうな話が次々に繋がってくるところに、この時代劇の面白さがあります。例えば石川が刺客に襲われるところを、梅安が目撃する場面。これが巡り巡って、最終的におみのの仕掛けにも関係してくると言った具合に、本作には当人の知らないところで、意外な形で結びついています。

 

梅安を演じる豊川悦司は、過去に梅安を演じてきた役者たちと遜色のない芝居を見せます。彦次郎役の片岡愛之助とも相性の良さが窺え、二人が絡む場面ではわくわくさせられます。おみの役の天海祐希は艶やかな容姿と年増女の凄みが同居していて、魔性の女がぴったり。対照的におもん役の菅野美穂は、男を包み込むような優しさを身に纏い、梅安の身の回りの世話をするおせき役の高畑淳子は、俗っぽい長屋のおばちゃんが似合っていました。また、柳葉敏郎は私の同世代にあたり、一世風靡でパフォーマンスをしていたギバちゃんが元締役を演じていることに感慨を覚えましたよ。

 

殺伐とした話にも関わらず、ここぞと言う場面では情感溢れる描写も見られます。鳥籠に入れられた小鳥を愛でるおみのは、かつての彼女の境遇を思えば、小鳥を自身に投影していると思えますし、彼女が最後に目にする過去の想い出も、梅安との関係を思うと万感胸に迫る描写となっていました。

 

また、梅安がおもんを抱いた直後に、おみのが彼女に抱き着こうとした亭主を突き飛ばす描写に移り変わったり、梅安が鍼を研ぐ描写から子供の頃に幼い妹の髪を梳く描写に飛んだりと、編集にも作り手のセンスを感じさせました。池波正太郎の時代小説は、しばしば涎が垂れそうな料理の描写が出ており、映画でも食事と調理の場面が多くあり食をそそられました。

 

尚、エンドロール後にもおまけ映像が用意されているので、退場時にはご注意を。この映像を見れば次作も観たくなり、私なぞは20年振りに原作を読み返したくなりました。