しくじりをしたラジオDJがホームレスと出会ったことで・・・「フィッシャー・キング」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督:テリー・ギリアム

脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ

撮影:ロジャー・ブラット

美術:メル・ボーン

音楽:ジョージ・フェントン

出演:ロビン・ウィリアムズ ジェフ・ブリッジス アマンダ・プラマー マーセデス・ルール

1992年4月4日公開

 

ラジオDJのジャック(ジェフ・ブリッジス)は過激で挑発的なトークで人気を博していました。ある日、番組の相談コーナーに常連の若者が電話を掛けてきます。ジャックはいつもの調子で彼を焚きつけた結果、若者はレストランで銃を乱射し、7人の犠牲者を出して自らも死ぬ惨事を引き起こします。

 

それから3年の月日が経ち、落ちぶれたジャックは恋人アン(マーセデス・ルール)の経営する下町のビデオショップで、居候のような生活を送っていました。ある夜、ジャックは飲んだくれて埠頭に来た際に、浮浪者狩りの若者たちに襲われます。そこへ、奇妙な浮浪者パリー(ロビン・ウィリアムズ)とその仲間たちが現れ、若者たちを追い払います。

 

パリーは聖杯を探しており、それはニューヨークの大富豪の邸宅にあると言うのです。そしてジャックこそがその聖杯探しの力になる人物だと捲し立てます。翌朝、ジャックはパリーがレストランでの銃乱射事件に巻き込まれ、妻を失ったことを知ります。ジャックは、パリーのために何か力になりたいと考え、彼の憧れの女性リディア・シンクレア(アマンダ・プラマー)との仲をとりもとうとします。

 

ジャックはアンの力を借りて、どうにか2人を引き会わせ、4人で食事をするまでに漕ぎつけます。ところがその夜、パリーの目の前に“赤い騎士”が目の前に現れ、逃げ惑った末に、以前ジャックを襲った二人組の若者に重傷を負わされます・・・。

 

こちらの映画は封切り時に観たきりで、彼此30年振りの鑑賞になりました。ジャックは毒舌をウリにしているDJで、番組に電話をかけてくるリスナーにも容赦はしません。毒舌でも、その場の空気を読んだり、相手の気持ちを察したりすれば、多少印象も好くなるのですが、彼の場合、そんなことを考えている様子は見られず、面白ければそれで良しとする、調子こきの典型例と言えます。

 

ジャックの発言は無責任極まりなく、彼の発言に焚きつけられたリスナーの一人が、レストランで銃を乱射し、7人の犠牲者を出した挙句、自死してしまいます。当然、社会に大きな影響を引き起こしたジャックへの風当たりは強く、事件以降、彼は失業状態になり、恋人のアンに食わせてもらう状態になります。

 

そんなジャックは若者たちの浮浪者狩りに遭ったことがきっかけで、浮浪者のパリーと知り合います。ところが、彼が銃乱射事件の被害者遺族であることを知り、ジャックは動揺します。彼は罪の意識からパリーの望みを叶えてあげようとしますが、現実逃避しているパリーはおかしな願いを頼みジャックを困惑させます。

 

現実逃避して社会復帰できない点では、ジャックもパリーと同じ立場にあり、ホームレスのパリーを見捨てられないのは、彼と自分を重ね合わせていることもあり合点が行きます。パリーは以前から出版社に勤めるリディアを見初めていて、ジャックはアンにも協力してもらい、二人の恋を成就させようとします。

 

パリーが亡き妻とは全くタイプの異なる(と思われる)リディアに惹かれるのは、彼もまた彼女に自分の姿を重ね合わせている節が見受けられます。彼女はドジッ娘で、社会に適合しにくいタイプの女性。過去を引き摺るパリーもなかなか社会復帰が叶わず、社会から受け入れてもらえない立場から不器用なリディアを好ましく思っています。

 

ただし、パリーが恋を成就するためには乗り越えなければならない壁があります。それが時折フラッシュバックとして現れる“赤い騎士”。テリー・ギリアムらしいファンタジー表現で、パリーの前に常に立塞がる敵となっています。現実逃避するパリーにとって、“赤い騎士”は過去の亡霊の象徴であり、その亡霊と向き合い、過去のトラウマを克服しない限り、新しい道は開かれません。

 

彼は“赤い騎士”に追われた末に、浮浪者狩りの若者二人組から暴行を受け重傷を負います。身体の傷は治せても、心に負った深手は癒せそうになく、パリーは心を閉ざしたままの状態が続きます。ジャックはそんなパリーを立ち直らせるため、大富豪の邸宅からパリーが聖杯と思い込んでいるカップを盗むことで、彼もまた過去から決別しようとするのです。

 

ジャックはパリーと違い、社会復帰の目途が立ったにも関わらず、アンに対して酷い仕打ちをしたために、彼女から絶縁宣言されています。ジャックが聖杯を奪う行為は、パリーに報いるためと同時に、アンの愛を取り戻すための通過儀礼でもあります。本作は生き馬の目をむくニューヨークを舞台にしながら、ファンタスティックでロマンティックなコメディになっており、テリー・ギリアム作品の中でも特にお気に入りの一本です。