マンホールに落ちた会社員が脱出を試みようとするが・・・「#マンホール」を観て | パンクフロイドのブログ

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#マンホール 公式サイト

 

チラシより

営業成績No.1のデキる男・川村俊介。社長令嬢との結婚前夜、渋谷で開かれたサプライズパーティで酩酊し、帰り道で不覚にもマンホールの穴に落ちてしまう。深夜、穴の底で目覚めた川村は、足に深手を負い、思うように身動きが取れない。スマホで現在位置を調べるがGPSは誤作動を起こし、警察に連絡するも、まともに取り合ってもらえない。唯一つながった元カノに助けを求めることができたが、そこである疑念が生じる。「もしかして、ここは渋谷ではない?」何者かにはめられたと考えた彼は、SNS上で「マンホール女」のアカウントを立ち上げ、場所の特定と救出を求める。犯人探しに湧き上がるネット民たちを操る川村。結婚式までのタイムリミットはあと僅か---。このどん底から這い上がれるのか!?

 

製作:ギャガ ジェイ・ストーム

監督:熊切和嘉

脚本・原案:岡田道尚

撮影:月永雄太

美術:安宅紀史

音楽:渡邊琢磨

出演:中島裕翔 奈緒 永山絢斗

2023年2月10日公開

 

本作はソリッド・シチュエーション・スリラーにあたり、特殊な状況に置かれた人物が、極限状態から如何に抜け出していくか、その過程に作り手の手腕が問われます。観客にとっては一見面白そうに見えても、見掛け倒しに終わる映画も多々あります。つい最近も、地上600メートルのテレビ塔から降りられなくなり、二人の女性が脱出を試みる「FALL フォール」という映画がありました。ただし、「FALL フォール」はこの手の映画には珍しく、納得の行く成功例になっていました。

 

さて肝心の「#マンホール」ですが、ネタバレになるため詳しく内容を明かせないのがもどかしいです。先に結論から申せば、素材は良いし、所々工夫が凝らされているのが見受けられ、意外性もあります。その一方で、肝心なところに無理があり、しかも看過できない点が非常に勿体ないです。荒唐無稽な映画でも一定程度の辻褄合わせは必要で、この映画には小さな疵に留まらず、致命傷となっているのが残念です。

 

主人公の川村俊介は、当初渋谷で穴に落ちたと認識しているのですが、話が進むにつれて全く別の場所にいる疑いが濃くなってきます。でも、観客が映像を見る限りでは、お開きの直後に落ちたとしか思えません。この辺りは演出上、観客を煙に巻く必要もあり許容範囲内とも思えます。また、川村がマンホールの外の情報を得るために、スマホを上に放り投げるのは、この段階では外部の連絡手段となる道具が壊れたらと思うと、無茶な行為にしか思えません。尤も、異常な状況に置かれたら、一刻も早く抜け出したい気持ちも分からなくなく、そこは目を瞑ることができます。

 

ただし、疎遠になっていたとは言え、ある人物の声を把握できていなかったとすれば、根幹を為す部分が崩れてしまうため見過ごすことはできません。他にも終盤には警察が川村の居場所に駆けつけようという展開になり、そのことは彼にとって不都合な状況になるのですが、あのラストを見せられると、むしろ川村にとって好都合となり、監督の意図していたものとは逆になると思いました。

 

一方、この映画の長所としては、主人公の秘密が明らかになった途端、今まで観ていた景色がガラッと変わる意外性があります。やや後出しジャンケン気味で、もう少し伏線を張って欲しかった思いはありますが、作品の様相が一変する快感は貴重。また、元カノの工藤舞(奈緒)、同僚の加瀬悦郎(永山絢斗)も居たとは言え、川村を演じる中島裕翔による一人芝居が、最後まで緊張感を保たせたのは大きかったです。そして、公式にクレジットされていない役者の登場も嬉しい驚きでした。

 

日本ではこのジャンルの映画がなかなか製作されないこともあって、応援したい気持ちはあります。でも如何せん、志が結果に結びついていないのが惜しい。この映画はオリジナル脚本ですが、そこに拘ることがなければ、映画化に最適な小説もあります。例えば昨年刊行された夕木春央の「方舟」なんかどうでしょう。韓国映画に先に映画化されないためにも、今から唾をつけておくのもいいかも。