不謹慎さと黒い笑いが癖になりそうな「毒薬」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

ヌーヴェル・ヴァーグ以前 より

 

製作年:1951年

製作:フランス

監督・脚本:サッシャ・ギトリ

撮影:ジャン・バシェレ

音楽:ルイギー

出演:ミシェル・シモン ジェルメーヌ・・ルヴァ

         ジャン・ドゥビュクール ジャック・ヴァレンヌ

 

ポール・ブラコニエ(ミシェル・シモン)と彼の妻ブランディーヌ(ジェルメーヌ・・ルヴァ)は、30年も連れ添っているにも関わらず折り合いが悪く、互いに死ねばいいのにと思っていました。ポールが司祭(ジャン・デュヴァレ)に妻への不満をこぼしている一方、ブランディーヌは薬剤師(ジョルジュ・ビエヴァー)から殺鼠剤を購入していました。

 

その頃、村の人々は村おこしをしようと司祭に相談しますが、あまりにも非常識な提案に追い返されます。そんな折、ポールは100件以上の訴訟に勝った弁護士オーバネル(ジャン・ドゥビュクール)が出演するラジオ放送を耳にして、彼に会いに行きます。オーバネルはてっきりポールが殺人を犯し、その弁護を依頼しに来たと思い、対応処置をアドバイスします。

 

ところが、ポールは如何に無罪になるかの手段を弁護士から引き出して帰宅します。ポールが弁護士事務所を後にした直後、友人の検察官(ジャック・ヴァレンヌ)がオーバネルを訪ねてきます。検察官はオーバネルのラジオ出演時における不用意な発言が、殺人の引き金になりかねない懸念を彼に伝えます。

 

帰宅したポールは床に寝ていたアル中の妻を起こします。ブランディーヌは夫にワインを買いに行かせた隙に、彼のグラスに殺鼠剤を混ぜて飲まそうとします。しかし、ポールはワインを飲む前にテーブルに置かれた包丁で妻を刺殺してしまいます。ポールは妻の死を確かめた上で、スープの入った鍋を壁にぶつけ、その音を聞きつけた村人たちや警官の前に出ていき、喧嘩の末に不可抗力で妻を殺したことを告げるのです。

 

この騒ぎを知った薬剤師はブランディーヌが夫を毒殺したと勘違いし、解毒剤を持って駆けつけます。ところが、包丁の突き刺さったブランディーヌの死体を目にして気を失います。周りにいた人々は気付け薬代わりに傍にあったワインを飲ませますが、そのワインに殺鼠剤が入っていたため、薬剤師は亡くなってしまいます。

 

ポールが警察に拘留されると、オーバネルは早速彼と接見し、騙されたことを詰ります。しかし、ポールは弁護を引き受けねば真相を暴露するとオーバネルを脅します。一方、村はポールが殺人を犯した事で村の名が知れ渡って大賑わい。閑散としたカフェも取材に来る人々が多すぎて席数を増やす始末。こうした中、ポールの裁判が始まります。

 

夫婦が互いに殺意を抱くまでの過程が十分描かれているため、特にポールがこの妻とはやっていけない気持ちが手に取るように伝わります。彼が妻と一緒にいたくないばかりに、カフェに閉店ギリギリまで粘るのは笑うに笑えません。この時点では、ポールは妻が死んでくれればと漠然に思っているだけで行動に移していません。先に行動を起こしたのはブランディーヌのほうで、冒頭の場面では、ポールが司祭に妻へのグチをこぼす近所で、ブランディーヌは既に殺鼠剤を購入しています。

 

ポールの心境の変化の転機となるのが、百戦錬磨の弁護士が出演したラジオ放送を聴いたこと。この弁護士に弁護してもらえば、殺人を犯しても無罪を勝ち取れると考えたポールは、衝動的に有能な弁護士オーバネルに会いに行きます。彼はなかなかのやり手で有罪と思われた刑事事件を次々と無罪にしています。また、オーバネル自身が倫理に関して、一般人とは異なる感覚を持っていて、ポールとの相性の良さが窺え、彼を引き寄せたのも頷けます。

 

ポールとオーバネルとの遣り取りがまた秀逸。オーバネルはてっきりポールが殺人を犯した後で、その弁護を頼みに来たと思い、そのつもりで対応策を教授するのですが、それがそっくりそのまま、これから殺人を犯すにあたっての注意事項や参考資料となっているのが笑えます。この後の展開を考えると、ポールの視点で見るとコメディに映るのに対し、オーバネルの視点から見ると悪夢としか思えなく、ちょっとしたフィルムノワール感があります。立場が違うと、喜劇と悲劇は紙一重であることを証明しています。

 

また、弁護士からのアドバイス、妻の購入した殺鼠剤、殺鼠剤入りのワインを飲んだ薬剤師等が、悉くポールに対して有利に働き、村おこしを目論む村人たちの思惑と絡み合って裁判へとなだれ込む一連の流れは痛快ですらあります。実際の裁判と並行して、子供たちが夫婦の殺人ごっこ、ポールの裁判ごっこの遊びを交互に映すカット割りも巧み。子供の遊びではポールがギロチン刑となりましたが、実際の判決や如何に?不謹慎さを絵に描いた結末は、笑ってしまうほど清々しかったです。