女組長に松原智恵子、女壺振り師に梶芽衣子の「侠花列伝 襲名賭博」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

ラピュタ阿佐ヶ谷

血湧き肉躍る任侠映画 より

 

製作:日活

監督:小澤啓一

脚本:星川清司

撮影:横山実

美術:木村威夫

音楽:小杉太一郎

出演:松原智恵子 藤竜也 梶芽衣子 高橋英樹 江原真二郎 深江章喜 見明凡太朗

1969年9月27日公開

 

 

昭和初期の湯治場上州鹿沢。芸者の志満(松原智恵子)は、入浴中に浅草の大平組に追われていた博徒の柿沢高次(藤竜也)を救ったことから、二人の間には愛が芽生えます。志満は亡き父がいた向田組の二代目・向田周吉(江原真二郎)の許婚でしたが、縁談には気乗りがしていませんでした。

 

その頃、向田組の湯元の権利を狙っていた本堂組の源蔵(見明凡太朗)、万蔵(深江章喜)の父子は、東京から高次を追ってきた大平組の乾分と結託して、向田組の勧進賭博で周吉に恥を掻かせます。翌朝、大平組は万蔵から高次が志満宅に潜んでいることを知らされると、強引に彼女の自宅に踏み込みます。高次は追手を斬りながら別れを告げて去り、志満も堅気に生きようと決心した高次と一緒になるため、東京での再会を約して上京します。

 

東京に着いた志満は、小料理屋・川重に住込みで働き始めます。そんなある日、店主・重吉(佐野浅夫)の亡き娘の夫・菊本露八(高橋英樹)が川重に現れます。露八は大平組の客分となっていて、組から高次を始末するよう頼まれていました。彼は志満に亡き妻の面影を見て心惹かれます。

 

ある夜、小宮山マキ(梶芽衣子)が川重にやって来ます。彼女は女賭博師で、鹿沢での勧進賭博で壺を振っていたことから、志満を見知っていました。マキは、志満のことを周吉に知らせ、周吉は上京します。しかし、志満の高次への想いを知ると、無理に連れ帰れませんでした。やがて、約束の日が来ます。高次は川重を訪れますが、マキも一緒でした。彼はマキと夫婦になったことを志満に告げて店を去ります。

 

そんな折、万蔵は大平組の乾分に周吉を襲わせます。周吉は瀕死の重傷を負い、志満は、向田組の老代貸・常松(植村謙二郎)の頼みを聴き、周吉の死の間際に祝言を挙げます。そして周吉は、湯元の権利を守るよう頼んで事切れます。鹿沢に帰った志満は、向田組三代目を襲名。本堂組は、周吉のいなくなった向田組に散々嫌がらせをした末に、湯元の権利を賭けて賽の勝負を挑んできます。志満は本堂組の勝負を受けて立ちますが、本堂組の壷振りは因縁のあるマキでした・・・。

 

本作は任侠映画でありながら、恋愛要素の強い映画です。加藤泰監督の「博奕打ち いのち札」もメロドラマ色の濃い任侠映画でしたが、「いのち札」が鶴田浩二と安田道代に絞られているのに対し、「襲名賭博」は松原智恵子と藤竜也を軸にしながらも、許婚の江原真二郎、松原に亡き妻の面影を見る高橋英樹、高次にぞっこんの梶芽衣子が二人の恋愛に絡んできます。しかし、この映画では誰ひとり結ばれないのがミソになっています。

 

また、本作では本心を隠しながら腹芸を見せるのが特徴として挙げられます。高次は志満に自分をあきらめさせるために、マキと所帯を持ったと嘘を吐きます。マキも高次が志満に一途なのを知りながら、相手の芝居に付き合うのが切ないです。そのマキが、湯元の権利を賭けたサイコロ勝負において、恋敵である筈の志満に花を持たせるのが何とも粋。一方、周吉の母親が息子と代貸を失ったため、志満を堅気に戻させて高次と添わせようとしたにも関わらず、志満は周吉と常松への義理から高次の居る目の前で、向田組に骨を埋める覚悟を示すのです。

 

この映画ではデジャヴのように敢えて同じ演出を二度繰り返しています。同じ演出を反復しているのに、結果や意味合いが違ってくる点が凝っています。敵の乾分が女湯に乱入してくる点は同じでも、序盤における志満が傷を負った高次を匿うのに対し、終盤のマキは自らの手で撃退します。前者が志満と高次の知り合うきっかけとなるのに対し、後者は自らけじめを取ることによって堅気になろうとする高次との決別を意味します。

 

また、志満を世話する小料理屋の夫婦が、女に酷い仕打ちをした男に物申す点も、相手方の想いはそれぞれ異なります。身を崩して妻と息子と別れた露八は自業自得の面がありますが、高次の場合は志満のためを思って、自分を悪者にしてあきらめさせようと芝居した違いがあります。渡世の義理から高次の始末を頼まれた露八が、高次となかなか出会わない点も計算が行き届いています。このことによって、殴り込みの場面において、二人の共闘に拍車がかかり、一層のカタルシスが生まれるからです。

 

自然現象を活かした演出も映画にひと役買っていました。雪の降る中、志満の三味線をバックに、露八が新内語りをする場面は情緒がある一方、激しく雨の降る中、高次と露八が本堂組に殴り込みをかける場面は荒々しさが強調されています。他にも、列車に乗った志満と、大平組の乾分に追われる高次を並行して撮った構図が、心揺さぶられる効果を上げています。

 

松原智恵子の組長と梶芽衣子の壺振り師の興味だけで観ようという気になった映画で、正直ストーリーはあまり期待していませんでした。ところが蓋を開けてみれば、良く練られた脚本、演出の妙と相まって、東映の良質の任侠映画に引けを取らぬ作品に仕上がっていました。このようにあまり名を知られないながら面白いプログラムピクチャーに巡り合えるから、名画座通いはやめられませんね。