不吉な時代の空気を感じながら刹那の恋に身を任す「キャバレー」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督:ボブ・フォッシー

脚本:ジェイ・アレン ヒュー・ホイラー

原作:クリストファー・イシャーウッド

撮影:ジェフリー・アンスワース

音楽:ジョン・カンダー フレッド・エブ ラルフ・バーンズ

出演:ライザ・ミネリ マイケル・ヨーク ヘルムート・グリーム ジョエル・グレイ

1972年8月5日公開

 

1931年、ベルリン。スターに憧れるアメリカ人の娘サリー・ボウルズ(ライザ・ミネリ)は、MC(ジョエル・グレイ)が取り仕切っているキャバレー、キットカット・クラブで歌手として働いています。ある日、ブライアン・ロバーツ(マイケル・ヨーク)が、ロンドンからサリーの下宿に引っ越してきます。学生で作家のブライアンは、博士号を取得するまでの間、生活のために英語を教えることになり、サリーの紹介でドイツ人フリッツ(フリッツ・ウェッパー)が生徒となります。

 

サリーはブライアンを誘惑しようとしましたが、巧くいかなかったため同性愛者なのではないかと疑います。彼はサリーに、これまで3回女性と関係を持とうとして、いずれも失敗したことを告白し、二人は友情で結ばれます。ベルリンの街頭ではナチス党員の活動が目立つようになる一方、ブライアンとサリーはそれに背を向け、2人の生活を謳歌します。やがてブライアンの英語の生徒に、美しい娘ナタリア(マリサ・ベレンソン)が加わり、フリッツは彼女に熱を上げ始めます。

 

その頃、サリーはマクシミリアン(ヘルムート・グリーム)という裕福でプレイボーイの貴族と懇意になり、サリーとブライアンは彼の豪邸に招待されます。マクシミリアンはサリーとブライアンをそれぞれ誘惑し、二人の関係に変化をもたらしていきます。ところが、マクシミリアンは二人とも関係を持つと、急速に興味を失い、アルゼンチンへ旅立ってしまいます。残された二人は口論をしますが、どちらもマクシミリアンと関係を持ったことを暴露し合ったことで仲直りをします。そんな折、サリーは身籠ったことをブライアンに伝えるのですが・・・。

 

父親が映画監督のヴィンセント・ミネリ、母親が女優のジュディ・ガーランドと、血統書付きのサラブレッドのライザ・ミネリ主演の映画なので、キャバレーでの歌唱シーンは水を得た魚の如く輝いています。彼女の狸顔も、ヒロインの性格と相まって次第に愛おしくなってきます。イケメンのマイケル・ヨーク、ダンディなヘルムート・グリームを相手にしても不釣り合いな感じはなく、二刀流の気もある男二人を魅了するのも無理なく思えます。三角関係にありながら諍いを起こさないのは、貴族のマクシミリアンの余裕ある大人の対応によるところが大きく、表面上は均衡が保たれています。

 

恋愛ドラマを軸にする一方で、劇中ではナチス勢力がひたひたと押し寄せる不穏な空気を常に醸し出しています。ブライアンの英語のレッスンをきっかけに知り合った、しがない青年のフリッツと富豪の娘ナタリアとの恋も、家柄の違いよりもユダヤ人であることを理由に結ばれぬ運命を暗示しています。また、序盤ではナチスの制服を着た男がキャバレーに居るのは完全な場違いに見えたのに、ラストショットではぼやけた映像ながらもかなりの数が散見され、主流派になっていることに恐れを抱きながら幕を閉じます。

 

最初は違和感だったのが、徐々に浸透していき、気づいたら多数派を占めていたという点では、移ろいやすい世の情勢を浮き彫りにします。世相を映し出すにしても、社会への不満が過激な思想に駆り立てることを垣間見せる点において、ボブ・フォッシーは卓見していたと言えましょう。

 

ご多聞に漏れず、「キャバレー」もなかなか劇場で観る事の叶わぬ映画です。都内の名画座でも、戦前や1950年代のマニアックと思えるような外国映画を上映してくれる一方で、1960年代から80年代にかけての人気のあった外国映画でも意外とかからないことが多いです。その意味では午前十時の映画祭はこうした映画を拾ってくれる意義があり、次回のラインナップが発表されるのを楽しみに待っています。