自然災害を思わせる怪獣映画 「空の大怪獣 ラドン」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:東宝

監督:本多猪四郎

特技監督:円谷英二

脚本:村田武雄 木村武

原作:黒沼健

撮影:芦田勇

美術:北辰雄

音楽:伊福部昭

出演:佐原健二 白川由美 小堀明男 平田昭彦 田島義文

1956年12月26日公開

 

九州熊本の炭鉱で突然、出水事故が起きます。技師の河村繁(佐原健二)が現場に急行すると、そこに由造という鉱夫の死体を発見します。警察が捜査に乗出し、由造と一緒に入坑して姿を見せぬ五郎が犯人と疑われます。更に、捜査に入坑した警官が惨殺される事件が起きます。

 

その晩、河村が五郎の妹・キヨ(白川由美)を慰めていると、巨大な怪獣が出現します。直ちに警官隊が出動し怪獣に向けて拳銃を発射しますが効き目はなく、怪獣は坑内に逃込みます。河村は機関銃を構えた警官と坑内に入るものの、落盤と共に穴へ落ちてしまいます。

 

数日後、河村は火山研究所の所員に救われますが、彼は記憶喪失症にかかっていました。鉱山では古生物学者の柏木博士(平田昭彦)を招き、怪獣についての対策を練ります。博士は、前世紀にメガヌロンと呼ぶ巨大なトンボがいて、石炭の中に埋れていたその卵が水爆実験による地核の変動で孵化したのではないかと推論します。

 

その一方で、自衛隊機が超音速で飛ぶ飛翔体を確認します。やがて河村は記憶を取り戻し、彼の証言と洞窟内の卵の殻から、柏木博士は空飛ぶ物体をプテラノドンと断定します。その後、航空自衛隊は、阿蘇山付近にラドンがいるとの報にジェット機を向けて攻撃しますが、瞬く間に叩き落されます。

 

それでも、自衛隊機の巧みな攻撃に、ラドンはロケット弾を打込まれ、海中に大津波を起して突込みました。しかし、ラドンは力を振り絞り、再び浮上すると博多市に現われます・・・。

 

この映画はスクリーンで観たことがなかったので、午前十時の映画祭の枠に入っていたのは心底嬉しかったです。しかも、4Kデジタルリマスター版で画像は鮮明。怪獣映画はやはり大きな画面で観るに限りますね。

 

ラドンは熊本に始まり、長崎を経て、福岡に移動と言う具合に九州を縦断します。圧巻は福岡市内の建物の破壊シーン。CGに慣れた若い世代にはチャチに見えるかもしれませんが、子供の頃に特撮映画、特撮テレビを見てきた者には、手作り感のあるミニチュアは味がありますし、不意にカルピスの広告看板や、森永キャラメルのネオンサインが出てくるのも嬉しい。

 

一口に怪獣映画と言っても、ラドンはゴジラやモスラの系列とはやや外れた立ち位置にあります。怪獣は自然災害の比喩の面がある一方で、ゴジラは原水爆実験への批判、モスラは行き過ぎた商業主義への異議申し立てなど、文明批評を含んでいます。

 

これに対してラドンは、地球温暖化への匂わせ、柏木博士による原水爆実験が巨大生物に成長した仮説があるにせよ、あくまで軽く触れられるだけ。また、ゴジラが破壊神と呼ばれるほどの攻撃性を見せたり、モスラが小美人を救うための理由付けがあったりするのに比べ、ラドンは単に本能の赴くままに空を飛んでいるだけ。ゴジラやモスラより遥かに自然災害感が強く、却って清々しいほどです。

 

私がラドンに惹かれるのは、怪獣自体が無自覚な行動を起こす点にあります。結果的に人類に災いをもたらしても、ラドンには預かり知らぬところにあります。したがって、怪獣オールスターの映画にラドンが登場すると、違和感しかなく、頼むから参戦させないでと思ってしまいます。ラストに人類が怪獣を倒した高揚感はなく、物悲しい感じで終わるのもラドンならではのものでした。