警察学校の鬼教官が今回は刑事を指導 長岡弘樹 「教場X 刑事指導官 風間公親」を読んで | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

 

第一話:硝薬の裁き

益野紳佑は妻を交通事故で亡くし、幼い娘の麗馨を男手ひとつで育てていました。麗馨は妻の死後から言葉を発しなくなり、益野が夜遅く自分の経営する工場から帰ってきてハグすると、苦しそうに息をするようになりました。益野の妻は質屋の海藤克剛の車に撥ねられ死亡しましたが、目撃者が麗馨だけだった上に、彼女の証言は採用されず、不起訴処分となりました。益野は何度も海藤に謝罪を求めたものの、海藤は一切取り合いませんでした。益野は自分の工場で改造拳銃を作り、海藤を自殺に見せかけ殺します。一方、鐘羅路子は刑事指導官の風間公親と共に、質屋殺しの捜査にあたります。路子は益野をクロと見做しますが、決め手となる証拠を見つけられずにいました。しかし、自身の花粉症と麗馨の喉の異音との共通性に気づき、益野を麗馨と一緒に工場に連れて行きます。

 

第二話:妄信の果て

戸守研策は就職活動を終え、新聞社の内定を得ていました。そんなところに、人文地理学のゼミを担当する教授の梨多真夫からメールが送られてきます。戸守が提出したゼミ論文に単位を出せないという内容でした。しかも、梨多は一ヶ月近く海外出張し不在になるとことも分かります。戸守は梨多の自宅まで押しかけ直談判します。しかし、梨多は前言を撤回せず、戸守は思わず梨多をテラスから崖下に突き落としてしまいます。戸守は写真撮影中に転落したかのように偽装工作した後、自分の部屋に戻ります。ところが、梨多の家にボタンを落としたことに気づきます。彼はタクシーを走らせて再び教授の家に戻り、第一発見者を装うことにします。一方、下津木崇人は刑事指導官の風間と共に、戸守に遺体発見時の様子を再現してもらいます。戸守をテストにかけた結果、下津木は戸守をシロと判断しますが、間もなく自分が風間に試されていたことに気づかされます。

 

第三話:橋上の残影

篠木瑤子は加茂田亮を殺すため、頭の中で犯行のシミュレーションを練っていました。そして、雨の深夜に実行に移します。彼女は歩道橋でレインコートのポケットから包丁を取り出し、加茂田の腹部を刺しました。瑤子はすぐに現場から立ち去る予定でしたが、加茂田の手首に彼女の亡き恋人の時計が嵌められていたのを目にして引き返します。瀕死の加茂田は欄干に手をつこうとした拍子に、持っていたサコッシュが下の線路に落ちます。やがて、加茂田は絶命したものの、瑤子は加茂田の身分を分からなくする必要に迫られます。加茂田の身体を調べると、彼の身体には白い湿布のようなものが貼られ、黒いコードもついていて、腰には革帯が巻かれ、9ボルトほどの電池のバッテリーがついていました。彼女はそれら一式を剝がし、レインコートのポケットに突っ込んだ後、オイルライターで顔や指紋を焼いて立ち去ります。風間から現場に呼び出された中込兼児は、現場付近の防犯カメラの映像に写っていた被害者の癖に着目します。その結果、被害者には服役経験があったことが判明し、加茂田まで辿り着きます。更に加茂田が内科医院で小腸の検査を受けたことも分かります。しかし、犯人を目撃した者がいないことから、瑤子の犯罪を立証するのは困難かと思われました。ところが、意外な方向から彼女の犯行が発覚するのです・・・。

 

第四話:孤独の胎衣

萱場千寿留は浦真幹夫と別れ、一人で子供を産む決心をしていました。浦真は手切れ金を渡して千寿留に堕胎させるつもりでいました。ところが、彼がイタリア人女性と結婚することになり、妊娠できない体のイタリア人女性が子供を欲しがったことから、浦真は千寿留の身籠っている子を譲るよう迫ります。更に彼は、親権を巡って争えば、高名な工芸家の自分と経済的に苦しい千寿留では勝負にならないことを仄めかすのです。千寿留は思わず大理石の灰皿を掴んで、浦真を撲殺してしまいます。隼田聖子は浦真宅で風間から事件に関する様々な質問を投げかけられていました。その際に薪ストーブが煙道火災を起こしていたことも指摘されます。やがて、彼女は西隣の家の小学生から、若いスリムな女性が手提げ鞄を持って浦真宅から姿を現し、歩き去っていった証言を得ます。また、Nシステムのデータを調べたところ、浦真の運転する車に千寿留が同乗していたことも判明します。しかし、男児の目撃証言のスリムな女性と、妊婦の千寿留では体形に大きな隔たりがあります。聖子は千寿留が既に子供を産んでいるにも関わらず、出産後にクリニックを受診していないことに不信感を抱きます。そして、ある推論が導かれます。

 

第五話:闇中の白霧

名越哲弥は小田島澄葉と海外の闇サイトを通して、違法に仕入れた商品をネット通販していました。名越は足を洗う決心をして、澄葉と袂を分かとうとします。しかし、彼女はこの商売を続ける気でおり、足を洗うなら警察にタレ込むと名越を脅します。そんな折、澄葉から「あなたを自由にしてあげる」とメールが届き、自宅に招かれます。名越は澄葉の出した不味いコーヒーを飲みつつ、彼女が自分を自由にさせる気がないのを見抜きます。彼は彼女の点鼻薬に毒を混入させ、澄葉の家を辞します。同じ頃、紙谷朋浩は姉夫婦の家の庭で甥の科学実験に付き合い、霧箱内の放射線量の変化を眺めていました。やがて、彼は西側の隣家で女性が昏倒するのを目撃し、図らずも澄葉の死体の第一発見者となります。紙谷は風間から第一発見者の重要性を説かれ、事件を混乱させるなと釘を刺されます。紙谷と風間は澄葉の携帯に名越宛のメールが残されていたことから、彼の事情聴取を行います。その際に、紙谷は名越が細かい字を読むのに苦労していたこと、聴力に難があること、喉の渇き方が異常なこと、痰を吐いていたこと、頭髪が抜け落ちていたことから、彼の身体に何らかの異常が生じていると考えます。また、名越が紙谷の顔を見て動揺したことから、どこかで会ったことがあるのか思い出そうとします。やがて、甥の実験に立ち会った際の記憶を手繰り寄せ、事件の最大の目撃者は自分であったことに気づきます。

 

第六話:仏罰の報い

実験中の事故により両目を失明した清家総一郎は、娘婿の甘木保則をかがませた状態にして、千枚通しで刺殺しました。甘木は詐欺罪で逮捕された経歴があり、被害者には一切弁済せずにいるクズ男でした。更に妻の紗季にも暴力を振るっており、娘の身を案じた清家は甘木を亡き者にしたのでした。彼は何者かが家宅侵入して、甘木を殺して逃走したように偽装工作をした上で、警察に通報します。風間から呼び出しを受けた平優羽子は、清家が本当に視覚障碍者なのか疑います。しかし、サングラスを外した清家の両目の目蓋を開かせ、彼が本物の視覚障碍者であることを確認します。そうなると、甘木の心臓を千枚通しで正確に心臓を貫くのは不可能になります。また、甘木の詐欺被害に遭った全員にアリバイがあることも判明します。優羽子は、詐欺師の甘木が正装して義父に会っていたこと、娘の紗季が甘木の主治医であること、清家が自分を律することに厳しいことに着目し、清家の秘密に気づきます。

 

警察学校で指導教官を務めていた風間公親が、今度は新任刑事を現場で指導していく短編集です。風間が新たな役目を与えられたのは、未解決の殺人事件が増えたことによって、経験の浅い若手刑事(六話の平優羽子だけ例外)に、県警のエースが1対1で指導にあたり、後進を育成しようとする目的があります。ただし指導と言っても、風間が捜査方法を伝授するのではなく、若手刑事に現場で気づいた事を徹底的に洗い出させ、自分の頭で考えさせるのです。

 

とは言え、事件を解決するヒントは常に与えています。それでも、要領を得ない返答をすると、「警察学校からやり直すか?」「交番勤務に戻るか?」と圧をかけてきます。今野敏の「隠蔽捜査」シリーズの竜崎も癖のある人物ですが、どちらを上司に選ぶかと尋ねられれば、迷わず竜崎を選びますわ(笑)。

 

六話のいずれも、あらかじめ犯人、犯行動機、犯行手口が読者に示されていて、若手刑事が如何に犯罪を立証していくかに焦点が向けられています。それとは別に、六話とも通り魔による連続傷害事件が起きていることが示され、不穏なムードが醸し出されます。風間の右目の義眼は、かつて逮捕した十崎からお礼参り的な襲撃を受けた際に負ったもので、最終話でその落とし前がつけられると予想しましたが、どうやらシリーズの別の話で決着がつきそうですね。