復讐、怒り、喪失感 「蛇の道」「蜘蛛の瞳」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

黒沢清 特集 そして“世界のクロサワ”へ より

 

蛇の道

 

製作:大映

監督:黒沢清

脚本:高橋洋

撮影:田村正毅

美術:丸尾知行

音楽:吉田光

出演:哀川翔 香川照之 下元史朗 柳ユーレイ 翁華栄

    砂田薫 丹治匠 佐藤加奈 小田彩美 田中瑞穂 森裕悟

1998年2月21日公開

 

幼い愛娘を暴行の末、殺害された宮下(香川照之)は、偶然知り合った塾の講師・新島(哀川翔)の協力を得て、犯人への復讐を企んでいました。ある組織の幹部・大槻(下元史朗)を拉致監禁した彼らは、屈辱を与えるやり方で実行犯を吐かせようとします。やがて、苦痛に耐えかねた大槻の口から檜山(柳ユーレイ)という男の名前が挙がります。ところが、その名前を耳にした宮下はひどく動揺するのです。

 

それでも、新島に背中を押され、二人はゴルフ場から檜山を誘拐拉致します。しかし、大槻同様に檜山も身に覚えがないと主張します。そんな折、新島は宮下に黙って大槻と檜山にある提案をします。適当な名前を口に出して、犯人をでっちあげようというのです。死にたくない為に、檜山と大槻は口裏を合わせ、有賀(翁華栄)という名前を挙げます。

 

その頃、檜山の情婦コメットさん(砂田薫)は、子分を連れて檜山の捜索に乗り出していました。一方、宮下は新島を信じ切り、大槻と檜山を始末した後、一緒に有賀の拉致に向かいます。そして、捕らえた有賀を連れて、ふたりは宮下の娘が殺害され、その模様がビデオに収録されたある廃工場へ赴くのですが・・・。

 

新島は犯罪に加担する訳なので、復讐の手伝いをするには相当な覚悟が必要です。しかし、新島は宮下の友人ではありません。では、その道のプロかと言うと、確かに手際の良さからその一端が窺えます。でも、双方の間に金の遣り取りは一切ないのです。では、何故新島が宮下の復讐にそこまで入れ込むのかが、最後まで違和感となってまとわりつきます。そして、ラスト近くに真相が明かされると、この復讐劇が宮下の物語ではなく、新島の物語であったことが腑に落ちてきます。

 

娘を殺された宮下は、拉致した相手二人を良く知っていながら、そのことを新島に隠し通そうとするので、単なる被害者の遺族とは思えなくなります。一方新島も、拉致している相手と秘かに取引をしており、腹に一物あるかのような振る舞いを見せます。取引をした檜山と大槻に対しても、土壇場でシナリオを変える上に、無慈悲な選択を迫ります。彼の真意がどこにあるのか不明であるため、その興味で話を引っ張っていきます。そして、真相が判明した時に、宮下より新島のほうが怒りと喪失感を抱えていたことが、ひしひしと観る者に伝わってくるのです。

 

蜘蛛の瞳

 

製作:大映

監督:黒沢清

脚本:西山洋一 黒沢清

撮影:田村正毅

美術:丸尾知行

音楽:吉田光

出演:哀川翔 ダンカン 大杉蓮 菅田俊 寺島進 中村久美 梶原聡 阿部サダヲ 佐倉萌

1998年4月11日公開

 

新島(哀川翔)は仕事にも身が入らず、淡々と妻(中村久美)と共に日々を送っていました。そんな時、昔の同級生・岩松(ダンカン)と再会し、彼から一緒に仕事をしようと誘われます。ところが、仕事をしていくうちに、裏では殺しを行っていることを知らされます。ある日、新島は組織の幹部・依田(大杉漣)に岩松の監視を命じられます。新島は仲間の岩松を監視する行為に嫌悪感を抱きながら、命令を受け入れます。

 

そのうちに岩松が暴力団・金政会の会長に接触していることが判明します。岩松は現在の仕事にかなりのストレスを抱えているように見え、新島は岩松の愛人のミキからも足を洗うよう頼まれます。彼は岩松に堅気になってもう一度やり直すことを勧めますが、岩松は踏ん切りがつきません。新島は金政会のことには触れずに報告書を依田に提出します。

 

依田は新島にボスの日沼(菅田俊)を引き合わせ、新島は日沼から金政会の会長を殺すように命じられます。岩松は新島から会長の暗殺の話を聞かされ動揺します。それでも、彼は新島、部下の前田(梶原聡)、星(阿部サダヲ)と共に、会長の暗殺を決行します。ところが、後に暗殺した相手が金政会の会長の替玉であることが判明します。

 

日沼は岩松の裏切りと判断し、新島に岩松を殺す命令が下されます。新島が事務所に戻ると、すでに岩松は姿を消しており依田の死体が転がっていました。新島は岩松の行方を追い、かつてみんなで釣りに行った湖で岩松を見つけます。新島は岩松を殺すかどうか決めかねていましたが、岩松は既に前田と星を使って日沼を殺す手配をしていました。それを知った新島は・・・。

 

本作が「蛇の道」で目的を果たした新島のその後の話なのか、それとも「蛇の道」の前日譚にあたるのか、正直私には判断できませんでした。それと言うのも、冒頭において新島が椅子に縛り付けた男(寺島進)を拷問して吐かせる描写があるためで、前作でケリが着いたはずなのに何故これが必要?と訝しく思うからです。しかも、ラスト近くに再びこの男が姿を見せるに至り、どういう事?と余計混乱します。私としては本作を経ることによって、新島が修羅の道に突き進んだと捉えるほうが、スッキリ頭に入ってくるのですが・・・。

 

前作が復讐劇だったのに対し、本作は新島と岩松の友情物語と言えそうです。毛色はやや異なりますが、パトリシア・ハイスミスの「アメリカの友人」における二人の男の間に流れるベタつかないBL感がありました。本作は湖で新島たちが一緒に釣りを楽しもうとする場面、化石掘りがいつの間にか鬼ごっこと化す場面、会長暗殺に際し星の銃が不発し続ける場面など、間の取り方、そこはかとないおかしみが、北野武の映画を連想させます。北野組の寺島進と大杉蓮、弟子のダンカンが出演していることも、余計に北野色を強く感じさせました。