DVDジャケットのあらすじより
ニューヨーク・ブロンクス。ジョーとアーティのチンピラ2人組が、マンハッタン行きの地下鉄に乗車した。そこには幼い娘を連れた夫婦、若いカップル、年老いた夫婦、教師とその美人の妻、白人を憎んでいる黒人とその妻、同性愛者、休暇中の陸軍一等兵などが乗っていた。ジョーとアーティは乗客をからかい始めるが、ドアが故障していたため誰も逃げられない。すると乗客はチンピラに挑発され、日ごろの鬱憤を爆発させる。そして感情をむき出しにし、互いをののしり始める・・・。
製作:アメリカ
監督:ラリー・ピアース
脚本:ニコラス・E・ベア
撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
音楽:テリー・ナイト
出演:トニー・ムサンテ マーティン・シーン ボー・ブリッジス ロバート・バーナード セルマ・リッター
ブロック・ピータース ルビー・ディー ヴィクター・アーノルド ジャック・ギルフォード
1968年5月25日公開
昨年映画館が休業状態にあった際に、自宅で観たDVDの中の一本です。『ぼくの採点表』で双葉十三郎氏が指摘しているように、ジョーとアーティが地下鉄に乗り込むまでに、乗客の背景や心理状態の説明に50分ほど費やされるのは確かにまどろっこしい面はあります。ただし、乗客の中にはあきらかにいけ好かない人物もいて、そいつらの鼻をへし折ることの痛快さもあるので、あながち構成が弱いと斬り捨てるのも酷のような気がします。
とにかくジョーとアーティな傍若無人な振る舞いを見ていると、非常にムカムカさせられ、その意味ではトニー・ムサンテとマーティン・シーンの人を不快にさせる芝居は見事だったと言えます。若者二人組が何の関係ない一般人を真綿で締めるような苦しみを与えるという点においては、その手の映画にはミヒャエル・ハネケの「ファニーゲーム」があり、「ある戦慄」はその先駆けとなった作品と言えます。さわらぬ神に祟りなしと見て見ぬふりをする乗客を批難するのは簡単ですが、実際その場に居合わせれば、その場の雰囲気に呑み込まれ、二人のヨタ者の脅しに屈する可能性は否定できないでしょう。
「ある戦慄」に関しては、私が学生の頃、もしかしたらスクリーンで観るチャンスがあったかもしれません。それと言うのも、当時池袋の文芸坐では『陽のあたらない映画祭』が企画されていて、私のリクエストした「ある戦慄」が最終候補に残ったからです。残念ながら、文芸坐の観客による投票では選ばれず、40年近く待たなければなりませんでしたが、ソフト化されて観ることができたのは幸いです。それでも、若い頃に観たらどのように感じたのか、知りたかった気もします。