寅さん人気にあやかった?「東京ド真ン中」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

蔵出し!松竹レアもの祭り より

 

製作:松竹

監督:野村芳太郎

脚本:高橋正圀 山田洋次

原作:藤原審爾

撮影:川又昴

美術:森田郷平

音楽:山本直純

出演:宍戸錠 森田健作 榊原るみ 倍賞千恵子 加東大介 渥美清 佐藤蛾次郎 太宰久雄 桜井センリ

1974年6月1日公開

 

高校教師の兵頭(宍戸錠)は新たな土地で赴任することとなり、昔の風情が残る街の古道具屋に下宿します。古道具屋の店主の善造(加東大介)は、裏手に住んでいる左官屋の安夫(森田健作)と友子(立花かおる)の兄妹の後見人になっており、安夫は偶然にも兵頭の教え子でもありました。

 

兵頭と安夫は再会を喜び、早速近くの来々軒で食事をします。来々軒は母親が病気のため、娘のお琴(倍賞千恵子)が一人で切り盛りしており、兵頭は彼女に一目惚れしてしまいます。やがて、お琴の母親が他界し、善造、“玉の湯”の福太郎(太宰久雄)、床屋の庄吉(桜井センリ)がお琴の身の振り方を相談した結果、庄吉のところで働いているライオン(佐藤蛾次郎)に来々軒の手伝いをさせることに決まります。

 

一方、目白の屋敷で仕事をしている安夫は、そこのお嬢さんの里子(榊原るみ)に恋をします。屋敷で最後の仕事をした日、安夫は思い詰めたあまり、屋敷に無断で里子を善造の家に連れてきてしまいます。周囲が誘拐の心配をするのを他所に、安夫は自分の気持をありったけの情熱をこめて語り、里子も安夫の想いを受け入れます。

 

安夫と里子の話を正式に煮つめるべく、善造は安夫の叔父で大工の棟梁の金之助(渥美清)に頼んで屋敷に挨拶に行ってもらいます。ところが、金之助は「職人風情に娘をやる訳にはいかない」と女主人(大塚道子)に言われて、喧嘩をしてしまいます。その顛末を聞いた安夫は自棄酒をあおり荒れます。

 

そんなところに、里子から電話が入ります。彼女が家を飛び出したことを聞いた安夫は、彼女を迎えに行くため夜の坂道を駆けていきます……。紆余曲折あったものの、安夫と里子の結婚式が行われ、次々と出席者の挨拶が続きます。そして、兵頭の挨拶の順番が来て、彼はスピーチを始めるのですが・・・。

 

「砂の器」の4ヶ月前に公開された喜劇です。山田洋次が脚本を手掛け、渥美清を始め、倍賞千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎が出演していることもあり、何かと「男はつらいよ」を意識させられます。浅草と(多分)谷中の違いはあれど、下町の気の置けない人々の交流は寅さんシリーズの雰囲気そのままでありますし、演者も「男はつらいよ」のキャラクターをそのまま持ち込んでいます。

 

渥美清演じる叔父さんは、正にその典型例。安夫の結婚相手の家に挨拶に行った結果を報告する場面にしか出てきませんが、まるで寅さんが乗り移ったかのような口調で、交渉が決裂したことを捲し立てます。ここは渥美清の独壇場であり、この映画の一番の見せ場となっています。

 

僅かな出演時間ながら存在感を強く示した分、本来主役となる筈の宍戸錠の印象が希薄になったのは否めません。宍戸演じる兵頭のキャラクターは気の毒に思えるほど劇中から浮いており、しかも物語にどのような役割を果たしたのかも曖昧。僅かにお琴に接した時のはにかみ振りが、「トラック野郎」の桃次郎がマドンナに対していい子ブリッ子するのを彷彿とさせ、そこだけはほっこりさせられました。

 

兵頭を中心にした物語と観ると辛いものがありますが、安夫の恋愛騒動を軸にした下町の人々の群像劇と捉えると、それなりの面白さは見出せます。加東大介を始めとする脇役陣のコンビネーションは良いし、榊原るみは相変わらず愛らしいし、セットで拵えた昭和の街並みも郷愁を誘います。マドンナに恋しながら、結局別の場所に旅立つ話の流れは「男はつらいよ」を踏襲しており、寅さんシリーズが好きな方は観て損のない一作と思います。

 

他社作品ながらこちらも寅さん人気にあやかった喜劇でした。