雪に閉ざされたホテルで起きる惨劇 「シャイニング」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督:スタンリー・キューブリック

脚本:ダイアン・ジョンソン スタンリー・キューブリック

原作:スティーヴン・キング

撮影:ジョン・オルコット

美術:レス・トムキンズ ロイ・ウォーカー

音楽:ベラ・バートク ウェンディ・カーロス レイチェル・エルキンド

出演:ジャック・ニコルソン シェリー・デュヴァル ダニー・ロイド

1980年12月13日公開

 

教師から作家に転身したジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)はホテルの支配人と会い、冬季の間閉鎖されるホテルに管理人として住み込む話を進めていました。その頃ジャックの家では、息子ダニー(ダニー・ロイド)の様子を、母親ウェンディ(シェリー・デュヴァル)が心配そうに見守っていました。ダニーは自分の中にトニーというイマジナリー・フレンド(想像上の友人)がいて、トニーはホテルに一家が一冬を過ごす事に警戒を発していました。

 

そのホテルでは、前任者の管理人グレイディ(フィリップ・ストーン)が、孤独のあまり気が狂い、妻と二人の娘を斧で殺した末に、自分も自殺した過去がありました。しかし、ジャックはその事をあまり気に留めず、静かな環境で執筆活動を続けられることを喜びます。やがて、一家三人は大自然の中に建てられた展望ホテルに到着します。

 

ホテルが閉鎖される日、黒人の料理人ハロラン(スキャットマン・クローザース)は、ウェンディとダニーを連れて、ホテルの中を案内します。ハロランは “シャイニング”という、幻視超能力を持っており、ダニーが自分と同じ能力を持つことに気づきます。彼はダニーに237号室に近づかないよう警告を残して、ホテルから去っていきます。

 

こうして、猛吹雪により外界と遮断された展望ホテルで三人の生活が始まります。当初、ジャックはこの生活を楽しみますが、次第に妻がタイプライターを打っている時に、彼の様子を見に来ることに苛立ち始めます。一方、ダニーは父親に殺された姉妹の姿をたびたび目にするようになり、ハロランから禁じられた237号室に入ってしまいます。

 

ダニーはその場所で何者かに襲われ、傷を負った状態でウェンディの前に現れます。彼女は夫の様子がおかしくなったことと息子の傷を結び付け、ジャックがダニーに虐待したと思い込みます。妻から息子の虐待を疑われたことを機に、ジャックは自ら禁じていた酒に手を出し、より一層精神を蝕んでいきます。その結果、彼は妻子の存在が執筆活動を邪魔していると疑い、二人を “しつける”ため、家族を手にかけようとします・・・。

 

かれこれ40年ほど前に、今は無き三鷹オスカーにおいて、「非情の罠」「時計じかけのオレンジ」との三本立てで観て以来の鑑賞でした。トランス一家が展望ホテルの管理を務めるまでの前置きがこんなに長かったのかと思いましたし、こんなシーンあったっけ?と訝しむなど、40年は人の記憶を掻き消すに十分な月日であることを改めて感じさせました。

 

ただし、今回の午前十時の映画祭で観たヴァージョンは、40年前に観た時のヴァージョンに追加されたシーンがある可能性があり、違和感があってもおかしくないかもしれません。逆にキューブリックの外連味たっぷりの演出により、未だに忘れられない場面は多々あります。

 

血がホテルの廊下に大量に流れる描写を始め、開巻早々車を俯瞰で捉えた映像、ダニーがホテルの廊下を三輪車で走行するのをステディカムで映した映像、風呂に入っていた美女がジャックとキスを交わした途端老婆に変わる演出、ジャックとバーテンダーのロイドとの不穏な会話、ジャックが斧でドアを叩き壊す凶暴性、終盤ダニーがジャックに追われる迷路でのサスペンスなど、視覚的な効果が絶大で嫌でも目に焼き付けられます。

 

原作者のスティーヴン・キングは、当初「キューブリックはホラーを分かっていない」と映画化された本作に否定的でしたが、鮮烈な映像は40年経っても色褪せていません。また、怪異現象を取っ払えば、仕事に理解のない妻を不満に思う夫の家庭劇として捉えることもでき、その意味では意外と親近感?を抱かせる要素のあるホラーとも言えます。ジャック・ニコルソンの徐々に狂気に蝕まれていく演技は特筆すべきものがありますが、身も蓋もないことを言ってしまえば、舞台となるホテル自体が一番の主役だったように感じました。