幼なじみが本音を漏らしたばかりに・・・「無頼無法の徒 さぶ」を観て | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

池袋 新文芸坐

不滅のマイトガイ 小林旭 より

 

製作:日活

監督:野村孝

脚本:山田信夫

原作:山本周五郎

撮影:高村倉太郎

美術:松山崇

音楽:伊部晴美

出演:小林旭 長門裕之 浅丘ルリ子 小林千登勢 田中邦衛

1964年3月25日公開

 

栄二(小林旭)とさぶ(長門裕之)は、子供の時分から東京下町の経師屋「芳古堂」に奉公していました。経師職人として腕の立つ栄二に比べ、さぶは鈍重な上にどもりだったこともあり、自然と栄二がさぶを守る関係になっていました。さぶは「すみよし」の女中のぶ(小林千登勢)に好意を寄せていましたが、のぶは栄二を慕っていました。

 

ある日、呉服屋「綿文」に行った二人は、十年前に知り合ったすえ(浅丘ルリ子)と再会します。彼女は栄二との再会を喜びますが、綿文の娘その(山内幸子)も栄二に懸想していることに心穏やかでいられなくなります。そんな折、綿文の家宝である古代箔白地金襴の切れが無くなります。隣の部屋で作業をしていた栄二とさぶが店の者から疑われた末に、栄二の道具袋の中から切れが見つかります。

 

栄二は無実を訴えるものの、盗っ人扱いされた上に、芳古堂からも解雇されてしまいます。彼は身の潔白を証明しに綿文に乗り込みますが、屈強な若衆に袋叩きにされ警察に拘留されます。さぶとすえは面会に行き、荒れた栄二を目にしたさぶは、心ならずも自分が犯人と名乗り出たばかりか、栄二が自分を蔑んだ目で見るのが憎いと告白するのです。

 

栄二は石川島の人足寄場に送られ、誰にも心を開かずに無為の日々を過ごします。そんな折、面会に来たすえから、さぶが葛西の家に帰ったことを聞くや、栄二の心にさぶへの復讐心が湧きあがって来ます。栄二は脱走常習犯の清七(小松方正)の手を借りて、島から脱け出そうとするのですが・・・。

 

栄二がのぶにさぶへの不満を漏らし、さぶが日頃栄二に抱いていた鬱積を吐き出したように、人はふとした拍子に本音を吐露してしまいます。ただし、その本音が全てとは限らず、大抵はほんの一部にしか過ぎません。栄二とさぶがその本音を相手の全てと思い込んだことから、両者にすれ違いが生じ、二人は苦難の道を歩むことになります。

 

栄二がさぶを足手まといと思ったことは事実でしょう。ただし、足手まといのさぶを庇護することで、栄二の自尊心は満たされ周囲の彼に対する評価も上がっています。女たちからモテるのも、身近にさぶという存在がいるからこそ、自然と彼と比較して良く見られるとも言えます。

 

一方、さぶが栄二に見下されていると感じ、彼に憎しみを抱いたのも事実でしょう。それでも、さぶは何かにつけ栄二に助けられていることに感謝しており、栄二が頼りになる兄貴分であることに変わりはありません。

 

普段、相手に隠しておいた本音が、ふとした弾みによって悪いタイミングで出てきたことにより、二人の友情にヒビが入るのは不運としか言えません。強いて挙げるとすれば、栄二のデリカシーのなさと女にモテ過ぎることが、悲劇を呼び込んだのかもしれませんね(笑)。

 

栄二はのぶが彼に好意を持っていることに気づきながら、好いた女が別にいることを告白した上で、彼女にさぶと交際してくれと頼むのは些か配慮に欠けます。こんな言い方をされれば、のぶがさぶとの交際をきっぱり断るのも無理はないでしょう。モテ男の過信が知らないところで人から恨みを買っている可能性は高く、栄二が盗みの疑いをかけられた際に、彼を擁護するのがほんの一握りしかいなかったのも頷けます。

 

警察での面会時に、さぶの言葉を真に受けた栄二は、彼に恨みを抱きながら、石川島の人足寄せ場に送られます。この寄せ場は佐渡流しより少しはましな程度で、意地悪な看守、囚人を捻じ伏せる牢名主が居る点では然程変わりはありません。ここでは、温厚な所長の下條正巳、ベテラン看守の高品格、脱走常習犯の小松方正、強い者に巻かれる囚人の田中邦衛がいい味を出しています。

 

すえの面会により、栄二はさぶへの復讐が一層燃え滾り、清七と共に脱走を企てます。しかし、清七は副所長の小島の策略に気づき、栄二に脱走を思い留まらせようとします。何度も脱走を繰り返した清七が、囚人を人間扱いする所長の岡安を慮ることに、「何を今更」と言う気がしないでもありませんが、温厚な人物を辞めさせたくない想いは伝わってきます。

 

栄二はこのことをきっかけにさぶへの復讐心は薄れ、さぶが面会に来たことで彼への疑いが完全に晴れます。それでも、自分に罠を仕掛けた犯人が誰であるのかは、娑婆に出ても頭から離れません。犯人が誰であるかは言わぬが花でありますが、真相を知らされた栄二は、その人物も十分苦しんでいたことを悟ります。野村孝監督は「拳銃は俺のパスポート」で和製ハードボイルドの秀作を撮りましたが、こちらも山本周五郎の原作を見応えのあるドラマに仕上げていました。