暗い血の継承が惨劇を引き起こす 「悪魔が来りて笛を吹く」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター

没後40年 横溝正史 銀幕の金田一耕助 より

 

製作:東映

監督:斎藤光正

脚本:野上龍雄

原作:横溝正史

撮影:伊佐山巌

美術:横尾嘉良

音楽:山本邦山 今井裕

出演:西田敏行 夏木勲 鰐淵晴子 斉藤とも子 宮内淳 仲谷昇 梅宮辰夫 中村玉緒

1979年1月20日公開

 

昭和22年、銀座の宝石店天銀堂で、店員数名を毒殺し宝石を盗み取る殺人事件が起きます。椿英輔子爵(仲谷昇)は、この犯人と酷似していたため、容疑者の一人として取り調べを受けます。しかし、須磨に旅行していたアリバイが立証され釈放となります。ところが、英輔は娘の美禰子(斉藤とも子)に遺書を残して失踪し、2カ月後に死体となって発見されました。

 

そんな折、英輔の妻秌子(鰐淵晴子)や周囲の人々が観劇の際に、自殺したはずの英輔らしき人物を目撃したことから、脅えた秌子が夫の生死を確かめるため『砂占い』の儀式を行なおうとします。金田一耕助(西田敏行)は、天銀堂事件を担当した等々力警部(夏木勲)の依頼で儀式に立会うこととなります。

 

出席者は美禰子、秌子をはじめ、秌子の兄の新宮利彦(石浜朗)と妻の華子(村松英子)、伯父玉虫伯爵(小沢栄太郎)、その妾菊江(池波志乃)、秌子の世話役の信乃(原知佐子)、書生の三島東太郎(宮内淳)、東太郎の妹で女中のお種(二木てるみ)でした。占いが始まると、フルートの音が聴こえ、秌子は夫が吹いていると思い込みパニックになります。しかし、その音はレコードから流れたものであり、停電が解除されたために、スウィッチが入って鳴り出しただけでした。

 

やがて、帰宅した金田一は真夜中に等々力警部からの電話で、玉虫が殺されたことを知らされます。部屋は密室状態にあり、金田一は絞殺されたにも関わらず、血が拭き取られていることに違和感を覚えます。やがて金田一は、英輔の遺書が容疑者となる前に書かれている事、三島が千葉に買い出しには行かず、英輔と一緒に須磨に行っていた事実を突き止めます。

 

彼は事件の鍵が須磨にあると睨み、美禰子と三島を引き連れ須磨に向かいます。金田一と美禰子は須磨の玉虫伯爵の別荘の焼け跡から、英輔の筆跡で書かれた「悪魔、ここに誕生す」という文章を発見。更に玉虫伯爵邸から里子に出された子供がいることも知らされます。その矢先、椿邸で新宮が殺される事件が発生します・・・。

 

金田一耕助モノの映像化作品を意外と目にしていなく、実は本作も今回が初見でした。小説のほうは勿論読んでおり、原作との相違点がいくつか散見されるものの、肝の部分はきちんと押さえられていました。ドロドロした人間模様は、横溝正史の定番と言ってよく、それに加えこの映画では華族の中に潜む淫靡と禍々しさが強く表れています。

 

ここでは二組の禁断の関係が露わになりますが、一方が背徳感に満ちているのに対し、もう一方は運命のいたずらを強く感じさせ、切なさが込み上げてきます。物語で重要な鍵となるのが鰐淵晴子演じる秌子。劇中では大した動きは見せないのですが、とにかく鰐淵の醸し出す妖艶さで押し切ってしまうのが凄い。淫乱な女では片づけられない、女の業を背負っていて、彼女なしでは成立し得ない映画になっています。

 

秌子の娘を演じるのは斉藤とも子で、母親とは対照的に清楚さと上品さが滲み出ます。強い男に身を任す母親への反撥から、亡き父親を常に擁護し、ファザコン気味のせいか、金田一に思慕の念を抱いているようにも見受けられます。探偵と事件関係者の枠を越えているような感じがあり、金田一耕助シリーズでは珍しい間柄になっています。

 

脇役を見れば、闇屋に梅宮辰夫を擁し、秌子と情交を結ぶ相手に山本麟一を持ってくる辺りが東映ファンには嬉しいところ。また、ほんのチョイ役に中村玉緒、加藤嘉、浜木綿子、中村雅俊、秋野太作などを起用するのも贅沢感があります。プロデューサーの角川春樹と原作者の横溝正史にカメオ出演させているのも、ちょっとした遊び心が窺えます。石坂浩二の金田一が定着したため、西田敏行は些か不利な立ち位置にありますが、十分自分の持ち味を発揮しながら、独自の金田一像を築きあげていました。