ヌーヴェルヴァーグの作風に渡哲也の個性が嵌る 「紅の流れ星」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

昭和の銀幕に輝くヒロイン 第96弾 浅丘ルリ子 より

 

製作:日活

監督:舛田利雄

脚本:池上金男 舛田利雄

撮影:高村倉太郎

美術:木村威夫

音楽:鏑木創

出演:渡哲也 浅丘ルリ子 宍戸錠 杉良太郎 松尾嘉代

        奥村チヨ 藤竜也 谷村昌彦 深江章喜 富永美沙子

1967年10月7日公開

 

殺し屋の五郎(渡哲也)は加島組の親分を撃ち、東京を逃れ神戸の関興業の用心棒に納まっていました。しかし、用心棒稼業とは名ばかりで、実際は何をすることもなく、愛人のユカリ(松尾嘉代)と気ままな生活を送っています。

 

ある日、関(山田禅二)と取引きしていた宝石商の小島(山田真二)が行方不明になり、小島の婚約者と名乗る啓子(浅丘ルリ子)が関興業を訪ねてきます。留守番をしていた五郎は啓子に興味を覚え、彼女の婚約者探しに付き合います。

 

そんな折、五郎をつけ狙う殺し屋の沢井(宍戸錠)の存在に気づいた弟分のキー坊(杉良太郎)と恋人の駒子(奥村チヨ)は、沢井をボートで沖へ連れ出したものの、キー坊は返り討ちに遭い殺されてしまいます。一方、五郎は六甲山麓で発見された死体が小島であること、小島を殺した犯人が関と幹部の田辺(杉江弘)であることに気づき、身元不明の死体を啓子に確認させます。

 

ところが、当の啓子は婚約者の死に何の反応も示さず、一緒に寝てもいいと言い出して五郎を驚かせます。五郎もその気になりますが、宇須刑事(藤竜也)からキー坊が死体で発見されたことを知らされ、仇討を決意します。そして、ボートに残された紙片を手掛かりに、沢井の泊るホテルに向かうのですが・・・。

 

※ネタバレしていますのでご注意ください

 

石原裕次郎主演の「赤い波止場」を、舛田利雄監督がセルフリメイクした作品です。裕次郎の「赤い波止場」を観ていないので、比較することはできませんが、渡哲也の剽軽とも言えるほどの“軽さ”が、真逆である筈の殺し屋の役柄と意外に相性が良く、独特の個性を放っています。

 

初期の健さんのとっぽさに魅力があるように、ここでの渡のキャラクターも後の「浮浪雲」の主人公に繋がる軽さへの下地があります。あるいは、ヌーヴェルヴァーグ風の作りをしていることから、「勝手にしやがれ」のジャン=ポール・ベルモンドも連想させるかもしれません。

 

東京で仕事を終えた五郎は、ほとぼりが冷めるまで神戸の組に匿われます。五郎の東京に想いを馳せる姿は、「望郷」でパリに想いを募らせるペペル・モコを思わせますね。また、ラストにも汽笛が鳴り響き、主人公の無念な想いとも重なります。

 

五郎という名前も『無頼』シリーズの主人公と一緒で、本作の舛田利雄や助監督を務めた小沢啓一が後に『無頼』シリーズでも監督を手掛けたことを考えると、このリメイクが前哨戦のようにも思え、日活の無国籍アクションとニューアクションの端境期にある作品であることを意識させられます。

 

五郎は神戸で無為の日々を送り、空虚感に包まれています。愛人のユカリに対しても「好きなことに変わりはないが飽きている」と残酷な言葉を投げつけています。しかも、酷い事を言っている自覚すらありません。そんな折、東京から啓子が行方不明の婚約者を探しに来たことによって、五郎に転機が訪れます。

 

啓子を演じる浅丘ルリ子が着こなす60年代ファッションは、時代を一回りした感じで逆に新鮮に映り、50年以上経っても目が惹きつけられます。啓子はミステリアスな女で、何を考えているか読みにくいところがあります。宇須刑事との会話でも、彼女が失踪した小島を愛しているかどうかも微妙な感じに映ります。

 

宇須が啓子に「婚約者と肉体関係があったか?」と直球の質問を投げかけるのが、ポリコレお構いなしの60年代ならではの遣り取り。啓子も宇須にはあったと言う一方で、五郎にはなかったと答え一筋縄ではいきません。彼女はラストでも五郎に引導を渡すような行為をして彼を戸惑わせます。

 

五郎が肝心の場面で啓子に“恥を掻かせた”しっぺ返しにも受け取れますが、それ以前に啓子が二人は住む世界の違うことを悟っていたゆえの選択だったように思えます。マニラに一緒に逃げようと誘う五郎に対して、「好きだけど、一緒に暮らすのは堪らない」と答えるのがその証左ですし、五郎がユカリに向けて放った台詞への意趣返しにもなっています。

 

役者に注目すると、五郎の弟分のキー坊を演じる杉様の粋がったチンピラ感が新鮮。健さんや辰ちゃん同様に、大御所の初期の初々しい芝居を楽しめます。その恋人役の奥村チヨは劇中で「北国の青い空」を歌い、殺し屋の宍戸錠に接触するなど、小さい役ながら意外と見せ場を作っています。敵役となる宍戸は渡の引き立て役に回り、日活を支えたスターから若手スターにバトンが手渡された感があります。

 

五郎は物騒な職業にも関わらず、繊細な面を見せます。とっぽくても、どこか憎めない愛嬌があります。弟分が殺されたことを報せた宇須刑事に、啓子とこれからしけこむ素振りを装う強気な面を見せる一方、啓子という美味しいごちそうを目の前にしながら、弟分の仇討を優先させるのがボンクラ野郎の心に響きます。

 

叙情性がありながら、あまり湿っぽくならないのが日活アクション映画のいいところで、五郎が己の死に際に自ら帽子を被せるのが何とも粋。口笛のメロディが最後まで耳に残る逸品です。