昨年見逃した「透明人間」「ザ・ハント」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

池袋 新文芸坐

本当に怖いのは人間・・・、暴かれる心の闇 より

 

どちらも昨年公開された映画で、観たいと思いつつ見逃してしまいました。ただし、こうして二本立てで上映されると、なかなか費用対効果が良くて、焦らずに新作を観なくてもいいかなという気にさせられます(笑)。

 

透明人間 公式サイト

 

チラシより

富豪で天才科学者エイドリアンの束縛された関係から逃げることの出来ないセシリアは、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出を図る。悲しみに暮れたエイドリアンは手首を切って自殺をし、莫大な財産の一部を彼女に残した。セシリアは彼の死を疑っていた。偶然とは思えない不可解な出来事が重なり、それはやがて、彼女の命の危険を伴う脅威となって迫る。セシリアは「見えない何か」に襲われていることを証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。

 

製作:アメリカ

監督・脚本:リー・ワネル

撮影:ステファン・ダスキオ

音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ

出演:エリザベス・モス オルディス・ホッジ ストーム・リード オリヴァー・ジャクソン=コーエン

2020年7月10日公開

 

本作は、ヒロインがあの手この手で追い詰められていくのが見どころです。暴力の矛先が直接セシリア本人に向かうのみでなく、彼女が大切にしている家族や知人に向けられる点が重要。

 

夫のエイドリアンは狡猾で用意周到に準備をしており、相手の先を読む術にも長けています。遺産相続の条件に、刑事罰のないことと精神異常をきたしていないことを盛り込み、それを盾に拘束されたセシリアに取引を持ちかけてくるところなど、クズの真骨頂と言えます。だからこそ、セシリアがクズに見合った狡賢さで意趣返しするのが快感となります。

 

非常に面白く鑑賞できた本作ですが、気になった点も二、三あります。ひとつはエイドリアンが一瞬姿を現す演出法。ダメージを負った際に見ることができるようなのですが、こちらとしては何らかの道具を用いて、はっきりとした痕跡を残すやり方にしたほうがしっくりきます。

 

また、エイドリアンがセシリアに執着する理由も今イチ分かりませんでした。セシリアを演じるエリザベス・モスは飛び抜けて美人という訳でなく、知性や優しさで男の気を惹くタイプでもありません。恵まれた環境にいる夫が、セシリアに固執する理由を掘り下げて欲しかったです。

 

他にも、黒人警官のジェームズとの関係が分かりづらいです。彼女を匿うくらいですから親しい間柄なのでしょうが、恋人という雰囲気でもなかったし(セシリアは彼の娘のシドニーとベッドで寝ていた)、特にジェームズがセシリアの狡猾な企みを悟った後では、恋人かそうでないかの違いは重要で、余計にモヤモヤしたものが残りました。

 

それでも、ダメンズ好きとしては、窮地に陥ったヒロインの活躍と、彼女に罠を仕掛ける夫のクズっぷりが楽しめ、一粒で二度美味しい映画でした。

 

ザ・ハント ユニヴァーサル サイト

 

映画.comより

広大な森の中で目を覚ました12人の男女。そこがどこなのか、どうやってそこに来たのか、誰にもわからない。目の前には巨大な木箱があり、中には1匹のブタと多数の武器が収められている。すると突然、周囲に銃声が鳴り響く。何者かに命を狙われることがわかった彼らは、目の前の武器を手に取り、逃げ惑う。やがて彼らは、ネット上の噂に過ぎないと思われていた、セレブが娯楽目的で一般市民を狩る「マナーゲート」と呼ばれる“人間狩り計画”が実在することを知る。絶望的な状況の中、狩られる側の人間であるクリステルが思わぬ反撃に出たことで、事態は予想外の方向へと動き始める。そして次第にマナーゲートの全容が明らかになり……。

 

製作:アメリカ

監督:クレイグ・ゾベル

脚本:ニック・キューズ デイモン・レンデロフ

撮影:ダーレン・ティアナン

美術:マシュー・マン

音楽:ネイサン・バー

出演:ベティ・ギルピン ヒラリー・スワンク アイク・バリンホルツ

       ウェイン・デュヴァル イーサン・サプリー エマ・ロバーツ

2020年10月30日公開

 

冒頭の機内において、感じの悪い乗客が面倒な注文をしてCAを困らせるという、至って普通の描写で始まりますが、その直後、突然錯乱した男が現れ、エッ?エッ!と展開になり、話の掴みとしてはなかなか巧いです。更に、猿ぐつわを嵌められた数人の男女が広い野原に姿を見せ、次々に狩られていく様子が描かれ、本番が始まった感じになります。

 

私はてっきり最初に目を覚まして猿ぐつわの鍵を見つけたお姉ちゃんと、彼女に銃の安全装置を外すよう指導した兄ちゃんを中心に話が回るのかと思ったら、全然違いました(笑)。“人間狩り”の部分は思いの外短く、標的にされた中の女性が逆襲しながら、黒幕を突き止めていく流れになっています。

 

様々な場所に罠が仕掛けられている上に、相手側は一般人を装って接してくるので、片時も息を抜けない状態が続きます。仕掛けた側は金持ちのクズのような連中で、理想主義を追った結果、悪い意味でポリティカル・コレクトネスに拘るリベラル層を連想させます。言葉の端々から、環境、LGBT等の問題への極端な考えが窺え、ちょっと笑いたくなるほど、作り手の悪意を感じさせます(笑)。

 

ただし、標的にされる保守層の貧しい白人たちも、後に何故彼らが選ばれたのかを説明されると、陰謀論を広めた末に、仕掛けた側に多大な損失を与えたことを考えれば、さもありなんと思ってしまいます。どちらも自分たちの主義主張に凝り固まり、違う意見を受け入れようとしない点では同じであり、似た者同士の関係にあります。作り手がどちらの側にも与せずに、少々意地悪さを織り交ぜながら、バランスよく描いている点が好ましいです。

 

したがって、中立の立場にあり、一連の出来事に巻き込まれただけのクリスタルがケリをつける結末も納得がいきます。大統領選後のアメリカの混乱ぶりを目にしただけに、公開時よりも現在においての鑑賞のほうが、アメリカ社会の“分断”が切実に感じられるかもしれません。