シネマヴェーラ渋谷
玉石混淆！？秘宝発掘！ 新東宝のディープな世界 アンコール＆リクエスト より
製作：新東宝
監督：小野田嘉幹
脚本：田辺虎男
原作：舟崎淳
撮影：山中晋
美術：小汲明
音楽：渡辺宙明
出演：菅原文太 三ツ矢歌子 三原葉子 丹波哲郎 杉山弘太郎 大友純
１９６０年１月３日公開
昭和20年初頭、須川中尉（菅原文太）は密命を帯びて大本営に向かいます。ところがその途中、敵機の攻撃に遭い南シナ海で遭難してしまいます。彼は漂流していたところを、得体の知れぬ輸送船に助けられ、船の中で意識を取り戻します。その輸送船は、日本の女たちを上海に売り飛ばす“お唐さん船”と呼ばれている女奴隷船でした。
その船に乗っていた瑠美子（三ツ矢歌子）は、野戦看護婦になるという名目で送りこまれ、輸送船の実体を知り絶望していました。そんな彼女が無断で甲板に出ていたため、船の首領であるクィーン（三原葉子）は彼女に制裁を科します。須川がこれを見咎め、水夫たちを殴り倒していきます。クィーンは瑠美子への制裁を一旦止め引き上げます。
そんな折、突然海賊船が姿を現わします。海賊たちは“お唐さん船”に乗り込み、乗船していた男たちを血祭りにあげた末、須川と女たちを海賊船に連行し、輸送船に火を放ちます。船は海賊たちの本拠である孤島に碇泊し、島では女たちの競りが始められます。海賊たちには、競りで売れた女は売約済みの焼鏝をおすという残虐な習わしがあり、女たちは舌を噛み切る覚悟で抵抗します。海賊の首領（丹波哲郎）は売り物の女たちに死なれては元も子もないと判断し、彼女たちを奴隷小屋に監禁します。
その頃、須川も殺されずに監禁状態にありました。首領は米国スパイの陳（川部修詩）が須川を欲しがっていることから、利用価値があると踏んで彼を生かしておいたのです。一方、首領から他の女たちと別待遇を受けていたクィーンは、須川に気がありました。彼女は密かに須川を逃がし、二人だけで島から脱出しようと持ちかけます。しかし、須川は囚われた女たちを見捨てておけず、見張りを倒し集団脱走を試みますが・・・。
上海に女達を売り飛ばすための輸送船が海賊に襲撃され、主人公共々海賊のアジトである孤島まで連れていかれる前半は、船の甲板で繰り広げられる戦闘を含め、海洋冒険アクションのロマンに満ちています。中盤から後半にかけては須川中尉と囚われた女達の脱出劇のサスペンスが加わり、種類の異なる活劇が堪能できます。
とは言え、話が突出して面白い映画ではないので、自然と主要な役者に目が向くようになります。菅原文太演じる須川中尉は、機密文書が隠された写真を大本営に届ける重要な任務を与えられます。ところが、いくつものアクシデントが重なり、海賊に捕らえられた上に、米国スパイに引き渡される危機が生じます。軍人としては任務を優先し一人だけでも島から脱出するのが正しいのですが、海賊の手によって日本人の女たちが外国に売られていくのを黙って見過ごすことのできぬ硬骨漢でもあります。こういう点がクィーンから惚れられる理由なのかも。爽やかな青年将校の役は初期の文太さんでないと味わえませんね。
文太さんの敵役となる丹波哲郎は、どんなにあくどい行為をしても、不思議と陰険さをあまり感じさせない、悪役としては珍しいタイプ。この辺りは大らかな御本人のキャラクターが、大いに効いているのかもしれません。三ツ矢歌子演じる瑠美子はこの映画に出てくる女たちの中で、唯一の清純派。娼婦たちの中で素人娘は浮き上がりそうなものですが、性格が良いこともあり、大切に扱われています。海賊の首領に貞操を奪われそうになるものの、別の大事な案件が持ち上がって有耶無耶になる辺りは、作り手が三ツ矢歌子の清純なイメージを保つため、巧みに危機を回避した演出のようにも見えます。
本作で一番やりがいのある役なのは、クィーンを演じた三原葉子でしょう。女衒の親玉だったクィーンは、海賊に襲われたことにより、娼婦たちと同等の立場にされてしまいます。それまでの横暴な振る舞いから、娼婦たちから相当な恨みも買っています。その危機感があるからこそ首領に取り入り、他の女達と別扱いにするよう仕向けます。その一方で、須川に好意を抱く純情さがあり、監禁されている彼を助け出し、一緒に逃げようと持ちかけます。また、瑠美子に異常な嫉妬心を燃やし、時には須川への裏切りも辞さない行動も取ります。一人の女の中で悪女と可愛い女が同居し、敵か味方かどちらに転ぶか分からない怪しさがあり、ヴァンプ役を得意とする三原葉子の魅力が如何なく発揮されていました。