二転三転する宝くじの行方は?「幸福の設計」を観て | パンクフロイドのブログ

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ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

ソフィスティケイテッド・コメディへの招待 より

 

製作年:1947年

製作:フランス

監督:ジャック・ベッケル

脚本:モーリス・グリフ フランソワーズ・ジルー ジャック・ベッケル

撮影:ピエール・モンタゼル

音楽:ジャン・ジャック・グリューネバルト

出演:ロジェ・ビゴー クレール・マッフェ ノエル・ロクヴェール アネット・ボワーヴル ピエール・トラボー

1950年2月21日公開

 

印刷工のアントワーヌ(ロジェ・ビゴー)とデパートの売子のアントワネット(クレール・マッフェ)は非常に夫婦仲が良いものの、共稼ぎをしてもなかなか暮らしが楽になりません。それでも、二人は隣人たちと上手に付き合いながら幸福な生活を送っていました。アントワネットは美人の上に気立てが良いため、男たちから常に熱い視線を送られています。中でも食料品店の主人のローラン(ノエル・ロクヴェール)は女好きで、彼女にご執心な様子。店員や買い物客の間でも噂になるほどでした。

 

ある日、アントワーヌが妻のバッグからマッチを取り出そうとした際、宝くじの券が一枚出てきます。彼が調べてみると、何と80万フランの当たりくじ。夫婦は喜び、翌日、アントワーヌは妻を送り出した後、賞金引換所に出かけます。ところが、いざ交換しようとすると、宝くじを入れた財布がありません。彼は地下鉄駅の窓口で財布を落としたことに気づき、戻ってみるものの、既に誰かに拾われた模様。落胆したアントワーヌは妻に顔向けができず、行きつけのカフェで酒を煽ります。

 

やがて、連絡のない夫を心配したアントワネットも合流し、彼を慰めた上で家に戻ります。折しもカフェの別室では結婚式が行われており、花婿は地下鉄で拾ったまま警察に届け損ねた財布に気づきます。彼は結婚式の準備が忙しく、そのまま放っておいたのですが、アントワーヌと親しいカフェの主人が彼のものだと気づき、無事アントワーヌの許に財布が返ってきます。

 

ところが、その財布に入っていたのはハズレくじ。アントワーヌは一瞬花婿を疑うものの、カフェの主人に「当りの宝くじを盗むならばそもそも財布を拾ったことを申し出ない」と説得されます。彼は項垂れてアパートに戻りますが、ドアには鍵がかけられています。アントワーヌはドアをこじ開け部屋の中に入ると、妻に無理矢理言い寄ろうとするローランの姿が目に入ります。彼はカッとなり、ローランに殴りかかろうとするのですが・・・。

 

本筋に入る前に、パリの下町の人々の生活がじっくり描き込まれており、それが後々情趣となって滋味あふれる物語に昇華しています。印刷工のアントワーヌは不良品の本が出た場合、廃棄せずに家に持って帰っています。その不良品を妻のアントワネットが友人たちに貸し出し、友人たちから感謝されています。昔の日本人もご近所さんに醤油などを貸し借りしていたこともあり、こうした庶民感覚や付き合いは洋の問わず変わらないと思わせます。

 

アントワネットは人妻にも関わらず、多くの男たちから言い寄られます。彼女はデパートのスピード写真のコーナーで働いているのですが、店に来た客から誘われ地下鉄構内で何とか振り切ります。また、同じアパートに住む若造のボクサーが隙あらば口説こうとするのを辛うじて押しとどめます。

 

最もしつこいのは食料品店の主人のローランで、彼女が買い物をするたびに、何かと便宜を図ってあげます。こいつは自分の店の従業員を職権で愛人にしており、完全にセクハラオヤジ。アントワネットにも高額な給与をちらつかせて、自分の店で働くように仕向けモノにしようと思っています。

 

ただし救いなのは、アントワネットが男あしらいの巧いこと。口説かれ慣れていることもあるでしょうが、周囲の人々を味方につけて、その都度危機を乗り切っている様子を見ると、普段から彼女が如何に人に好かれているかが窺えますね。それでも、モテる妻を持つ夫は気が気ではありません。いくら仲が良いと言っても、かつかつの生活をしているだけに、アントワーヌとしてはローランのような札束で人の頬を叩く真似を見過ごすことはできません。

 

そんなところに、80万フランの宝くじの当たり券が舞い込んできたものですから、夫婦が舞い上がるのも無理はありません。二人にはそのお金でやりたいことが山ほどあり、アントワネットが口紅で鏡に書き出していくのが何ともお洒落。その大切なくじを、本の間に挟んでおくのは如何なものかと思うのですが、これがきっかけとなってドタバタ騒動が始まり、オチも巧く収まらないので致し方ありません。

 

くじを紛失してからの顛末は、実際に観て楽しんでいただくほかありませんが、紛失する前に色々と巧みな布石を打っています。特にくじ売り場の女性が、ハズレくじをさり気なく本に挿む描写が効いています。また、ヒッチコックの「北北西に進路をとれ」を彷彿するような(と言っても「幸福の設計」のほうが先なのですが)ラストのジャンプカットはお見事と言うほかありません。愛すべき映画と言いたくなる、ジャック・ベッケルの“下町三部作”の第一作でした。