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池袋 新文芸坐

生誕95年・没後50年 三島由紀夫 文学と映画 より

 

製作:東宝

監督:木下亮

脚本:井手俊郎

原作:三島由紀夫

撮影:逢沢譲

美術:竹中和雄

音楽:池野成

出演:岸田今日子 山崎努 中川ゆき 市川翠扇 有馬昌彦 木村俊恵 東恵美子 山村聰

1965年2月14日公開

 

元男爵夫人で洋裁店を持つ妙子(岸田今日子)は、離婚後、レストラン経営者の鈴子(木村俊恵)、映画服飾批評家の信子(東恵美子)の二人と仲良くなり、裕福で気ままな生活を楽しんでいました。ある日三人は、鈴子の提案により池袋のゲイ・バーを訪れます。頽廃的なムードの中で、妙子はバーテンダーをしている千吉(山崎努)に目を奪われます。同じ店で働くテル(佐藤晴彦)が二人の仲を取り持ち、妙子と千吉の付き合いが始まります。

 

二人の最初のデートは、新宿の喫茶店でしたが、千吉は遅れてやって来た上に、ジーパンに下駄ばきというラフな格好で、妙子の上品さとは正反対。妙子は次のデートには、くだけた服装で来たのに対し、彼は三ツ揃いの紳士然としたスタイルでキメてきます。その結果、妙子は意表を突く青年にすっかり魅了されてしまいます。

 

そんな折、ファッションショーに出かけた二人は、妙子の店の上客である繊維会社の社長夫人の室町秀子(市川翠扇)と娘の聰子(中川ゆき)と一緒に会食をします。妙子は室町夫人に千吉を甥と紹介するものの、娘はテーブルの下ですっかり手を握り合う妙子と千吉に気づき、二人の仲を察します。

 

それから数カ月して、妙子と千吉は、お互いの自由を縛らないという契約のもと同棲生活を始めます。ところが、千吉は妙子のもとへ帰ることは少なく、彼女を苛立たせます。妙子はこの状況が面白くなく、千吉と恋人を紹介しあうことにします。その日、妙子は料亭に政治家の平(山村聰)を連れて行き、後から来た千吉とその連れを見て驚きます。

 

聰子の話から、二人はファッションショーの日以来、交際していたばかりか、彼女の両親に千吉が妙子と関係があったことを告白した上で、婚約を結んだことが明らかになります。妙子にとっては寝耳に水の話で、後日テルにそのことを打ち明けます。テルもかつては千吉に恋心がありましたが、現在は金のためなら誰とでも寝るという彼の哲学に憎しみ抱いていました。彼は妙子に千吉にとって不都合な写真を渡します。その写真を手に入れた妙子は千吉に対して・・・。

 

本作は自分の本心を隠しながら、相手を意のままにしようとする恋愛ゲームの様相を呈しています。まるで狐と狸の化かし合いを観ているよう。恋の駆け引きがスリリングで、一癖も二癖もあり若い男を屈服させたがる女には、灰汁の強さがありながら魅惑的な岸田今日子がぴったり。

 

旧華族の出である妙子は、少女時代の堅苦しい生活の反動からか、その枷が外れた途端、離婚経験者の女同士の気安さから、鈴子、信子と共に独身の気軽な生活を謳歌しています。妙子は窮屈な暮らしが苦手なせいか、千吉の野卑な部分に惹かれています。千吉も彼女の好意を見透かすかのように、わざと女を焦らす振る舞いをするのです。千吉はパチンコ屋に入るのを嫌がる妙子を外で待たせ、妙子が堪らず中に入らざるを得ない状況を作り出してもいて、女の扱いに長けています。

 

一方、妙子は千吉を甥と偽り、上流階級の人々に彼を紹介していきます。妙子にとってはこっそり千吉と付き合うつもりはなく、公の場に彼と一緒にいることが重要で、上流の人々を騙す裏には、華族だった過去を消し去りたい気持ちが含まれてもいます。元は華族の屋敷だったラブホテルで、千吉と関係を持つのもその表れ。ただし実際のところ、観客の目には妙子が千吉に振り回されているように映ります。

 

同棲を始めたのにも関わらず、千吉は妙子とは距離を取っています。そればかりか、千吉が初めて外泊した際には、他の女とよろしくヤッているのではないかと猜疑心に悩まされ、千吉から大事な話があると言われれば、別れ話を切り出されるのではないかと気を揉む始末。彼女は千吉に対して劣勢な状況を逆転すべく、彼に互いの恋人を紹介し合う話を持ちかけ、貫禄たっぷりなおじさまを相手に選び、千吉から主導権を奪おうとします。

 

ところが、千吉の連れて来た女が知り合いの室町夫人の娘の聰子であるばかりか、彼女から思わぬ事実を突きつけられます。千吉の仕打ちに対して、妙子がテルから渡された写真をどのように活用するのかは言わぬが花ですが、怒らせた女の怖さを存分に見せつけます。重要なネタを握った妙子が、それを使って千吉を縛ろうとするのではなく、逆に彼を“解放”してあげるのがミソ。でも、却ってダメージを与えたように見えるのは、その遣り口が千吉に“罪”を意識せざるを得ないほどエゲつないから。

 

木下亮監督は「男嫌い」でも女たちが男をタジタジにさせる様を小気味よく描いており、この映画でも離婚経験者の女3人が姦しく中年の室町(有馬昌彦)を委縮させる様子が愉快でした。また、妙子が若いツバメを甥と偽っていることに対して、むしろ鈴子と信子が面白がっており、三島由紀夫らしい頽廃的な面も十分味わえました。ただし、洒落た都会的なセンスのある反面、ヒロインの独白が多く、彼女の心情を言葉で説明するのが過多に感じられるのが少々気になりました。