人は誰かの支えによって生かされている 「ニューヨーク 親切なロシア料理店」を観て | パンクフロイドのブログ

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ニューヨーク 親切なロシア料理店 公式サイト

 

チラシより

マンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店<ウィンター・パレス>。かつては栄華を誇ったお店も、今や古びて料理もひどい有様。店を立て直すために雇われたマネージャーのマークは刑務所を出たばかりの謎だらけの人物。常連の看護師アリスも、仕事ばかりで他人のためだけに生きる変わり者。そんなロシア料理店に、二人の子供たちを連れて、事情を抱えて夫から逃げてきたクララが飛び込んでくるが・・・。

 

製作:デンマーク カナダ スウェーデン フランス ドイツ

監督・脚本:ロネ・シェルフィグ

撮影:セバスチャン・ブレンコー

美術:キャロル・スピア

音楽:アンドリュー・ロッキングトン

出演:ゾーイ・カザン アンドレア・ライズボロー ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

       タハール・ラヒム ジェイ・バルチェル ビル・ナイ

2020年12月11日公開

 

チラシのみの情報で、勝手にハートウォーミングな話だろうと想像したら、深刻な悩みを抱えた者たちの群像劇に少々面食らいました。特に切羽詰まった状況にいるのが、DV夫から逃げて来たクララ(ゾーイ・カザン)と二人の幼い息子。夫が警察官であるため警察に訴えることができず、クレジットカードも夫に握られているため、着の身着のままでニューヨークまで逃げるしか術がありませんでした。

 

当然無一文なために、安いホテルに泊まることもできず車中泊。食べ物はパーティーの参加者を装ってオードブルをくすねるうちはまだ笑えますが、高級ドレスを万引きして金銭に替えるとなるとシャレでは済みません。その罰が当たったのか、後に次男のジュード(フィンレイ・ヴォイタク・ヒソン)が死の一歩手前の危険にさらされます。無断駐車していた車が没収されたため、クララたちが教会で暖を取ろうとしていたところにアリス(アンドレア・ライズボロー)が現れ、親子は彼女の好意で教会の一室に泊めてもらえます。

 

アリスは救急病棟で勤務する傍ら、勤務時間外では<赦しの会>というセラピーを開いたり、ホームレスへのボランティア活動を行なったりしています。非の打ち所の無い見上げた女性なのですが、“いい人”でいることへのストレスも相当抱えています。<赦しの会>に参加して来たのが刑務所帰りのマーク(タハール・ラヒム)。彼は友達の弁護士のジョン(ジェイ・バルチェル)の付き合いでやって来ただけで、アリスが促しても自らの悩みを打ち明けようとしません。マークは出所祝い?で訪れたロシア料理店の料理の不味さとサーヴィスの悪さがきっかけで、オーナーのティモフェイ(ビル・ナイ)からマネージャーとして店を任されます。

 

一方、ジェフ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、普通の人々と感覚がズレていることから、なかなか社会に適合できず職場を次々と馘になります。おまけに家賃を溜めたためにアパートを追い出され、ホームレスになり凍死寸前のところを、アリスの勤務する病院に搬送され一命を取り留めます。ジェフはアリスと知り合ったことが縁で、彼女のボランティア活動を手伝うことで衣食住を確保できるようになります。またアリスは、不慮の事故と夫の出現によって病院に居られなくなったクララと長男のアンソニー(ジャック・フルトン)を見かねて、馴染みのロシア料理店に案内したことにより、クララはマークとも繋がりができます。

 

このように今まで縁のなかった者同士が、ひょんなきっかけから次々と繋がり出すのが本作の見どころであり、他人の支えによってそれぞれが抱えていた問題が解決へと導かれる辺りも群像劇の醍醐味と言えます。また、ニューヨークは弱肉強食のイメージがある一方で、ホームレスへの対応などを見る限り、弱者を救済する手立てが様々にあることを示している点も作品の印象を良くしていました。本作は厳しい現実を見せつつも、聖夜に相応しい映画ではないでしょうか。