極悪組長と暴力刑事が無差別殺人鬼を追いつめる 「悪人伝」を観て | パンクフロイドのブログ

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地元のシネコンでは、韓国映画や香港映画が上映されることは滅多になく、稀に上映されたとしても1ヶ月や2ヶ月遅れの公開になるのが通例でした。ところが、今回のコロナ禍の影響により、新作のタマがなかったためなのか、「悪人伝」はめでたく同時公開の運びになりました。これは「悪人伝」に限らず、「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」の時も同様で、コロナ禍に見舞われる前は地元で公開される気配は全くなかったのに、緊急事態宣言が解除されそうになった途端、いきなり公開の情報が出てきて、私にとっては嬉しい驚きでした。災い転じて福と為すほどではないにせよ、コロナ禍も悪い事ばかりではなかったかも。良質の娯楽作が地元で観られる恩恵は、一過性ではなく継続してもらいたいものです。

 

悪人伝 公式サイト

 

 

チラシより

凶暴なヤクザの組長チャン・ドンスが、ある夜何者かにめった刺しにされる。奇跡的に一命をとりとめたドンスは対立する組長の仕業を疑い、手下を使い犯人探しに動き出す。一方、捜査にあたるのは、暴力的な手段も辞さない荒くれ者として知られるチョン刑事。彼は事件がまだ世間の誰も気づいていない連続無差別殺人鬼よるものであると確信し、手がかりを求めてドンスにつきまとう。互いに敵意を剥き出しにしながら自らの手で犯人を捕らえようとするドンスとチョン刑事。しかし狡猾な殺人鬼を出し抜くために互いの情報が必要であると悟った2人は、いつしか共闘し犯人を追い詰めてゆく――。

 

製作:韓国

監督・脚本:イ・ウォンテ

撮影:パク・セスン

美術:チョ・ファソン チョン・イジン

音楽:チョ・ヨンウク

出演:マ・ドンソク キム・ムヨル キム・ソンギュ

2020年7月17日公開

 

本作は設定からして、ある程度の面白さが担保されています。武闘派のやくざの親分が連続殺人犯に襲われ、事件を捜査しているはみ出し刑事がその事を聞きつけ、タッグを組んで犯人を追うというプロットだけで興味津々。被害者のチャン・ドンスは殺人鬼に襲われた際、犯人の顔を目にしており、やくざのメンツに賭けて落とし前をつけようとします。ただし手掛かりはないため、警察の科学的な調査に裏づけされた捜査情報が喉から手が出るほど欲しい立場にあります。

 

一方チョン刑事は、管轄を跨いだ個々の殺人事件が無差別連続殺人であることを上司に訴えても聞き入れてもらえず、捜査の人員も増やすことは不可能な状況。こちらは、ある程度手掛かりを得られていても、虱潰しに調べていく人海戦術が取れません。一方は手掛かりが欲しいし、もう一方は人手が欲しい。こうして、やくざと刑事の利害が一致して連携をとりながら、変形した相棒映画の様相を呈してきます。

 

ただし、犯人を見つけることに関しては一致しても、それぞれ目的が異なるため、当然互いが相手より早く犯人を確保しようとします。特にチョン刑事は、ドンスに先を越されると犯人が消されてしまい、連続殺人鬼の残された犯行を立証できないため、ドンスより早く逮捕する必要に迫られます。互いに協力しつつも、相手を出し抜こうとする駆け引きがあり、こうした点も物語を面白くしています。

 

また、ドンスとチョンの人と成りが、共に最初の登場シーンから瞬時に伝わる手際の良さもお見事。マ・ドンソクの肉体から、ドンスの腕っ節が強いことが察せられるのに加え、サンドバックを散々叩いた末に、サンドバックの中味が実は・・・というタネを明かす演出も、彼が敵対する者には容赦のない性格であることを示しています。その反面、車を後ろから追突されても激高せずに穏やかに対応し、女子学生に傘を貸すような優しい一面も見せます。

 

一方チョン刑事も、車の渋滞にイライラし、その腹いせにドンスの子分を散々いたぶり、ドンスに捜査の協力を迫るため、彼のカジノを無理矢理摘発するなど、刑事らしからぬ常軌を逸した行動を取ります。こんな二人に目を付けられた犯人には、御愁傷様と言いたくなりますが、こちらも快楽のために罪のない人々を次々に手をかけるので、過去に親から虐待を受けていたとしても、とても同情する気にはなれません。

 

二人は徐々に犯人を追い詰めていき、最終的に犯人は捕らえられます(どちらに捕らえられたかは言いませんよ)。本来目的の異なる二人のうち、どちらかが犯人を捕まえれば、その時点でコンビは解消となるのですが、ここから更に相棒映画の色が濃くなっていくのが、この映画の美点です。しかも、やくざも刑事も最終的に自分たちの目的が果たされるのですから、見事なオチと言うほかありません(ただ、一刑事が組長の要求にあそこまで応えられるのかは疑問ですが)。以前、ハ・ジョンウの出演映画にハズレなしと記事に書いた記憶がありますが、マ・ドンソクもその域に近づきつつあるのかもしれませんね。