誰が坂本龍馬と中岡慎太郎を殺したか?「六人の暗殺者」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

風雲急を告げる!幕末映画祭 より

 

製作:日活

監督:滝沢英輔

脚本:菊島隆三

撮影:藤井晴美

美術:武村四十二

音楽:佐藤勝

出演:島田正吾 宮城野由美子 辰巳柳太郎 滝沢修 山形勲 三島雅夫

         河野秋武 沢村國太郎 石山健二郎 藤代鮎子 大山克己

1955年6月5日公開

 

慶応三年京都。土佐藩士の伊吹武四郎(島田正吾)は、坂本龍馬(滝沢修)の隠れ家近江屋へ行く途中、怪しい六人組と遭遇します。ところが、江戸の両替屋佐吉(秋月正夫)と娘お新(宮城野由美子)に出会い、武四郎は二人に引き留められ、その間に坂本と中岡慎太郎(河野秋武)が何者かに暗殺されてしまいます。

 

武四郎が駆けつけた時には犯人一味は消えており、中岡が息を引き取る前、彼の口から覆面の六人組の仕業と知ります。武四郎は覆面の六人組を目にしながら、敬愛する龍馬を救えなかったことを恥じ復讐を誓うのです。しかし、手掛かりとなるのは、新選組行きつけの料亭の庭下駄しか証拠がありませんでした。

 

やがて武四郎は、見廻り組の土屋久之助(笈川武夫)が新しく鞘を購入したことを聞き込み、彼が江戸へ向かったことを知ると、急いで土屋の後を追います。武四郎は師と仰ぐ勝麟太郎(三島雅夫)と共に土屋と会い、血曇り一つない土屋の刀を目にして、彼への疑いが晴れます。その夜、薩摩邸に益満(沢村國太郎)を訪れた武四郎は、同藩士の花俣(辰巳柳太郎)から犯人は新選組だと仄めかされます。

 

その頃、佐吉は江戸を荒しまわる御用盗に襲われ、店から金を奪われた上に深手を負います。武四郎は後ろ髪を引かれつつ、龍馬の仇を討つためお新を振りきって、新選組のいる京へ上ります。その途中、覆面一味と思われる二人組と遭遇します。武四郎は二人組を待ち伏せし、僅かの金を貰って相手が誰とも知らずに暗殺に加わったこと、首謀者が近藤勇であるらしいことを白状させます。怒りに震える武四郎は二人を斬り、新選組追討の官軍に参加します。

 

やがて、武四郎は江戸で捕われた近藤勇(山形勲)と面会し、手にかけようとします。しかし、近藤は龍馬暗殺に新選組は関わっていないと否定し、龍馬が邪魔になった薩摩の仕業だと言い切ります。その後、武四郎は薩摩藩士の花俣と森尾(郡司八郎)に襲われ、近藤が正しかったことを確信します。

 

武四郎は森尾を斬ったものの、深手を負って川に落ち、折よく来合せたお新の家の婆やお民(初瀬乙羽)の息子多吉(大山克己)に救われ一命を取り留めます。武四郎はお新の看護で体を持ち直し、彼女が止めるのも聞かず花俣を探し求めます。その結果、花俣は上野の戦争で戦死していたことが判明します。

 

時勢は変わり、武四郎はお新と結婚し新聞を発行することで、新しい人生を歩もうとします。ところが、薩長の藩閥政府を罵倒した事により、新聞事業の認可が取り消され、東京を追われる羽目になります。故郷の土佐へ帰る途中、二人は龍馬と中岡の墓参をします。その際に、武四郎は意外な人物と再会します・・・。

 

主人公の伊吹武四郎の特徴を挙げると、次の3点に絞られます。

1.肝心な時に不在 

2.人を容易く信じ思い込みが激しい 

3.女心が分からない 

 

肝心な時に不在

近江屋で坂本龍馬が殺される前に、武四郎は覆面を被った六人組の侍たちと遭遇しています。ところが、かねてより懇意にしていた佐吉とお新親子に再会し、よもやま話に付き合ったせいで、龍馬を救えなかった経緯があります。そのことが後々まで尾を引き、復讐にこだわる一因にもなっています。両替屋の白昼襲撃に関しても、武四郎がもっと早く到着すれば防げていたかもしれず、益々肝心な時にあいつはいない感が増してきます。 

 

人を容易く信じ思い込みが激しい

武四郎は新しい鞘を購入した土屋久之助を疑い(これはあっさり勝麟太郎に覆され)、花俣から暗殺が新選組の仕業と匂わされ、実行犯の二人からも近藤勇が首謀者らしいと仄めかされると、即座に信じ込む傾向があります。そもそも、武四郎は当初倒幕に関して龍馬と意見を違え、刺し違える覚悟で臨んだにも関わらず、龍馬の構想を聞いた途端、自分の考えを翻すなど、相手に感化されやすい性格です。彼の純粋さが、龍馬暗殺の核心になかなか近づけない原因とも言えます。

 

女心が分からない

武四郎はお新が自分を慕っているのを分かっていながら、彼女の気持ちに応えてあげられません。佐吉が重傷なのに京に上るし、お新が止めるのも聞かず、花俣のいる上野戦争の激戦地に足を運んでしまいます。ようやくお新と所帯をもって落ち着いたと思ったら、墓参の際にある人物を目にしたことで胸がざわつき、結局サシの勝負となってしまいます。ただし、唯一救われるのは、武四郎が復讐の呪縛から解かれたことにより、お新との新たな暮らしが待っていることを示唆するラストで、彼女の苦労も報われます。

 

本作はミステリ仕立てとなっており、龍馬暗殺の首謀者は誰なのか?という興味で話を引っ張ります。実行犯は突き止められますが、黒幕までは辿り着けてはいません。ただし、話の流れを追っていけば、自ずと黒幕は暗示されています。

 

その一方で、復讐に取り憑かれた男の目を通して、激動の時代をも描いています。外国の勢力による国内の分断化が図られ、欧米の植民地にされる危険があるにも関わらず、薩長は倒幕にこだわり、井の中の蛙状態に陥っています。坂本龍馬はその事を憂え、大局から行動を起こし、それが仇となって暗殺に到ります。

 

龍馬に尊敬を抱く武四郎が犯人に辿り着くのはもちろん、復讐を捨て相手を如何に赦すかが、この映画の重要な主題にもなっています。その意味では、復讐の対象者となる人物も結局政治に利用されたことが分かり、主人公が赦しを与えるにはいい落としどころとなっています。

 

同じ滝川英輔監督の手掛けた「江戸一寸の虫」と同様に、話が一段落したと思わせて、もう一山用意してあるのも興味深いです。「江戸一寸の虫」での青木彌太郎と本作の伊吹武四郎は、一本気な性格という点で共通項があります。ただし、「江戸一寸の虫」が悲劇で終わるのに対し、「六人の暗殺者」には武四郎とお新の門出を祝うような祝福感で幕が閉じるので後味はこちらのほうがよろしいです。

 

島田正吾、辰巳柳太郎を始め、本作は新国劇の役者を揃えていて、前進座の役者で固めた「人情紙風船」のようなチームワークの良さが感じられます。偉人を演じる役者の芝居も見どころのひとつで、個人的には西郷吉之助(西郷隆盛)役の石山健二郎が、世に知られる西郷像にぴったりでウケました。