純潔がまだ尊かった時代の「若き日のあやまち」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のとことんディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:野村浩將

脚本:菊島隆三 植草圭之助

撮影:平野好美

美術:下河原友雄

音楽:大森盛太郎

出演:龍崎一郎 相馬千恵子 左幸子 松本朝夫 十朱久雄 一の宮あつ子 沢村貞子

1952年6月26日公開

 

櫻庭女學院の仲良しグループ吉岡麻子(左幸子)、水澤眞弓(久世万里子)、山田雪子(木匠久美子)の三人は、スキー合宿に出かけ、コーチをしていた眞弓の家の下宿人の川邊雄二(松本朝夫)と親しくなります。麻子はスキー講習の際に、雄二に危ういところを救われてから、彼のことが気になり、学友たちに雄二と接吻したと嘘をついてしまいます。

 

そのため眞弓や雪子たちともちょっとした仲違いをし、担当教師の伊藤道子(相馬道子)からは、授業に身を入れていないと指摘されます。道子は麻子の嘘を見抜くと同時に、彼女が今最も揺れ動く年齢にあることを思って、雪子の兄、山田助教授(龍崎一郎)に相談をします。その間に麻子は、友を失った淋しさと厳格一方な家庭から逃れるため、街で知り合った不良青年と遊び歩いた末に、遂に純潔を失ってしまいます。

 

その上、ダンスホールのアベック・タイムを批判する新聞の写真に、麻子と相手の男子学生の踊っている姿が掲載されため、学校でも物議をかもし、教師や生徒を始め、人々の麻子へ向ける目は一層冷たくなっていきます。道子は麻子の堕落を救いたかったのですが、麻子が試験用紙を白紙で出したために、万策尽きたような徒労を感じます。折も折、家出した麻子がスキーの思い出のあるスキー場で凍死寸前の姿になって発見されます。道子は麻子を更生させるため、自分の過去の過ちを告白します・・・。

 

映画の冒頭、女学生たちが軽装でスキーをしていることに違和感を覚えます。スクリーン・プロセスではなく、明らかに夏服を着て滑っているので、さぞや寒かろうにと、話の筋よりもそちらの方が気にかかりました。

 

麻子はそのスキー合宿で、憧れの大学生の雄二とのキスが未遂に終わり、学友に見栄を張ったばかりに引っ込みがつかなくなり、更に事態を悪化させます。その麻子を演じるのが左幸子。老け顔(失礼)の彼女ですが、当時22歳だったこともあって可愛いらしく映ります。ちなみに本作がデビュー作。

 

嘘キスによる波紋の影響は、級友が意地悪をしたとか、無理解な教師が叱ったとか、噂に尾ひれがついた訳ではなく、麻子が勝手にオウンゴールした感じなのです。担任の道子は麻子を心配して、生徒の相談に乗ろうとするものの、告解室を連想させる場所では麻子には重く、余計心を閉ざしてしまいます。

 

でも、麻子を一方的に責められないのは、当時性の知識は限られた書物でしか扱っておらず、余計に好奇心を刺激してくるからです。おまけに純潔が尊ばれていた時代で、麻子が産婦人科医の娘であることや、キリスト教系の女学校だったことも、微妙に負の要素に働きます。

 

麻子の級友の眞弓は、母親(沢村貞子)がお得意様の披露宴に呼ばれ、下宿している雄二と怪しい雰囲気になりますが、彼が自制を働かせたおかげで、大事には至らずに済んでいます。母親が年頃の娘を大学生と二人きりにすることに批難を浴びせられそうですが、一応母親は出かける前に雄二にそれとなく釘を刺しており、予定より早く帰ってもいます。

 

眞弓に比べると、麻子は彼女に目をつけた男が悪かった。麻子がパチンコをしていた際に、磁石で玉を操作することを教えている時点で、この不良学生の本性を見抜けなかったのが仇となります。また、この男子学生が温和そうな雰囲気のイケメンで、女がコロッと騙されそうなタイプなのよ。

 

ダンスホールで体を火照らせ(大人の社交場なのに、未成年を入れさせる店もどうかと思いますが)、雨宿りをしている時に、さり気なく連れ込み宿に引っ張り込む手口は、相当なスケコマシであることを思わせます。宿屋の女主人と目配せする点や、金の代わりに腕時計を渡して宿代にする辺りも手慣れていて、セイガクの分際でとんでもねぇ野郎ですわ(笑)。

 

処女を奪われた麻子は、(顔は隠されていますが)新聞記事の写真に載り、女性教頭にくだんの男子学生に迫られる現場を見られたことにより、益々立場が悪くなっていきます。自暴自棄になった彼女を、道子が如何に立ち直させるかが、終盤の見どころとなります。当時の女性の貞操観念を窺い知るには、格好の教材となる映画であり、純潔と言う言葉が死語となった現在では、隔世の感があります。