公安が国内で謀略活動をする組織と対峙する「地下帝国の死刑室」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のとことんディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:並木鏡太郎

脚本:葉山浩三 志原弘

原作:楳本捨三

撮影:西本正

美術:岩武仙史

音楽:阿部晧哉

出演:宇津井健 池内淳子 和田桂之助 江見俊太郎 高宮敬二 寺島達夫

1960年2月14日公開

 

化学兵器の世界的権威・田川博士(倉橋宏明)が大阪からの帰途、飛行機のなかで誘拐されます。公安の秋山(宇津井健)は博士の令嬢・早苗(池内淳子)に、兄の英治(和田桂之助)が謀略機関の手先となってこの事件に関与していることを打ち明け、彼女に協力を求めます。また、秋山は博士が搭乗していた便のCAの百合子に空港で撮った写真を見せ、監視中の橋戸(東堂泰彦)が同乗していたことを確認します。

 

ところが、彼女はこの直後何者かに殺されてしまいます。その後、捜査の壁につきあたった秋山のもとに、暗号書らしき一枚の楽譜が届けられます。間もなく落し主の蘭子(天草博子)が現れ、秋山は早苗を蘭子の隣室に住まわせ、隠しマイクでその動静をテープに収録することに成功します。しかし、蘭子は時限爆弾を車に仕かけられ爆死。

 

やがて秋山は、英治がエルバソのマダム・銀子(魚住純子)と車で逢引きしているのを目にすると、早苗を女給としてクラブに潜入させます。ほどなく山ノ井(高宮敬二)という男がエルバソを訪れ、銀子と密談。早苗はバッグに潜ませた小型の録音機で、二人の会話の内容を録音します。その際に、謀略機関の一員の井野(新宮寺寛)に目をつけられてしまいます。

 

その後、香川刑事(寺島達夫)が客として張り込むものの、井野に見抜かれた挙句、地下室に閉じ込められます。早苗は香川が拉致されたことを秋山に報せ、秋山は部下の救出のため地下室に忍び込みますが、一味に発見されてしまいます。早苗の機転により秋山は危機を脱しますが、翌朝、香川は死体となって発見されます。

 

組織の首領川口(江見俊太郎)は、公安の侵入を見落とした「エルバソ」の支配人・寺西(川部修詩)をガラス張りの死刑室で処刑します。更に、早苗の身もとも暴かれて、博士が囚われている独房に監禁されます。一方、公安の網の目が張り巡らされ、謀略機関は徐々に追いつめられていきます。川口は組織にスパイがいると確信し、疑いの目は英治に向けられます。彼が処刑されようとする寸前、止めようとした銀子が銃弾に倒れます。やがて秋山たちがアジトに踏み込んだため、川口は山ノ井と共に博士をつれて国外脱出をはかるのですが・・・。

 

序盤の段階で、公安が田川博士を誘拐した謀略機関の存在を把握していたことが分かってくると、その割には警察の不手際も顕著に表れてきます。組織に尾行されていることに気づきながら、事件に関与していると思われる人物の顔確認の際に、重要証人となり得るCAを殺される不始末を仕出かしたのですから弁解の余地はありませんね。

 

更に、民間人の早苗を潜入捜査に使うのも無茶な話で、誘拐した組織は博士の家族構成も調べている筈で、そちらから足がつく可能性は極めて高いですよ。素人を使うより、女性警官に任せたほうが筋は通ると思うのですが、早苗をホステスにして組織を探らせないと話が面白くならないので、痛し痒しと言ったところ。

 

むしろ、前半は害になりそうなものは早い段階で摘んでおく謀略機関のほうが有能に思えてきます。殊に早苗の行動を怪しむ井野は優秀で、秋山が早苗を監視する井野の存在に気づき、咄嗟に婚約者のフリをしても、後で早苗にカマをかける抜け目のなさがあります。でも、川口が国外逃亡を図った際に、後を追おうとした井野を殺しているのですよ。ボスの冷酷さを表したかったのでしょうけど、既にその点は何度も目にしていますし、一緒に連れて行ったほうが役に立ちそうなのだがなぁ。

 

逆に映画の後半は、公安が前半の失点を挽回するほどの活躍を見せます。特に秋山が隠し玉を用意していたことが明らかになるくだりは、ポイントが高いです。でもその秘密を知ると、部下の香川が組織の内部を探るため、深追いして命をなくす必要もなかったように思えるのですが・・・。

 

荒唐無稽な話として楽しめる反面、日本人を拉致して国外に連れ出そうとする点は、どうしても“あの国”を連想してしまいます。国内に協力者がいる事、公安が目をつけながらなかなか内部に踏み込めない事は勿論、最終的に船で日本から連れ出そうとしますしね。公開当時、日本のメディアがあの国への帰還事業を礼賛していたことを思えば、制作者側はかなりあの国の本質を突き、先見の明があったと言えます。尤も、新東宝があの国を念頭に置いて撮ったかは定かではありませんが。