社会から弾かれた男たちが産廃業で社会に貢献しようとする「スクラップ集団」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター

昭和の怪優 小沢昭一のすゝめ より

 

製作:松竹

監督:田坂具隆

脚本:鈴木尚之

原作:野坂昭如

撮影:小杉正雄

美術:重田重盛 

楽:佐藤勝

出演:渥美清 小沢昭一 三木のり平 露口茂 宮本信子 ミヤコ蝶々 笠智衆

1968年11月24日公開

 

九州で汲取屋の仕事をするホース(渥美清)は、糞尿の匂いを嗅ぐのが趣味。彼は組合破りをしたために村八分にされ、廃坑に糞尿を捨てたことから警察沙汰となり大阪まで逃げて来ます。ケース(露口茂)は市の福祉課で働いていましたが、自分が担当していた老夫婦一家が心中したことにショックを受け退職します。ドリーム(小沢昭一)は公園の清掃人で、ゴミに夢中になり過ぎ、職務怠慢を理由に馘を言い渡されます。ドクター(三木のり平)は安楽死の研究に没頭するあまり、周りからも賛同を得られずに医学界から追放されます。

 

そんな4人が釜ヶ崎に流れ着き、意気投合した末に、人間生活につきまとうすべてのスクラップを商売にしようとします。彼らは元手のかからない屑屋から始め、資金が貯まると、スクラップセンターを設立。また、サーカス団の象が死んだのを耳にし、死体処理を行なった結果、宣伝効果が上がり、更に商売が繁盛します。すると、ドクターは事業欲に取り憑かれ、観光業にまで手を出し始めます。

 

ホースは観光事業の責任者に指名され、父親の分からない子供を身ごもった春子(奈美悦子)を連れ、九州の廃坑を観光地にします。ところが、彼は坑内で起きた落盤事故で命を落としてしまいます。その頃、ドリームはゴミ収集場で我が世の春を謳歌していましたが、繁殖したネズミに食い殺されます。一方ケースは、隠居した老人たちを安い賃金で働かせるドクターに反発を覚え、独裁者に成り下がった彼に見切りをつけ袂を分かとうするのですが・・・。

 

ホースは汲み取り業のストライキ中に、人々が用を足すのに困っているのを見かね、無償で汲み取りを請け負ってしまいます。そのことが組合から問題視され、村八分の扱いを受けます。新たに配属された地域は、ガソリン代で儲けが飛んでしまうほど離れており、それでもホースはしぶとく糞尿を廃坑に捨てることで、ガソリン代を浮かそうとします。ところが、そのことがバレて、警察に連行されそうになったところを、逃げ出して大坂に辿り着きます。

 

ケースは貧困家庭を小まめに訪ね、生活保護を受けさせようとするのですが、市の予算を気にする上役からは渋い顔をされます。老夫婦(笠智衆・瀧花久子)の頼みで、首に痣の残るオボコ娘(宮本信子)を抱いたものの、後に彼らが心中したことを知らされます。老夫婦はせめて死ぬ前に、娘に良い思いをさせようと、ケースに話を持ち掛けたのです。ケースは福祉の限界を思い知り辞職します。公僕として良心的に貧しい人々に接してきただけに、彼の挫折は切なくなります。

 

ドリームは公園の清潔さを保つために、異様な執念を燃やします。ゴミをポイ捨てするカップルの後をつけ、その都度ゴミを拾うストーカー並みの行動を見せます。ところが、青姦したカップルが残したコンドームを焼却するのが忍びなく、そのことがきっかけで、ゴミひとつない景色に違和感を覚え出します。更に、拾ったゴミをオブジェの如く撒き散らした結果、市の清掃課を馘になります。ドリームのキャラは分かりにくく、4人の中では一番浮いていますね。

 

ドクターは安楽死を推進する医者なのですが、医学界からは同意を得られません。唯一彼に賛同してくれた友人の医者も、不治の病を宣告された途端、ドクターが安楽死を施すのではないかと疑心暗鬼に取り憑かれます。その挙句、友人が事故死をしたことにより、ドクターは大いに失望を覚えます。

 

スクラップ集団の面々は、ドクターを除けばいずれも前職は公務員であり、市民に貢献する立場にいました。ドクターも安楽死の考えに是非はあるでしょうが、社会に貢献しようとする点では、他の3人と同じ立場にいます。ただし、4人とも変人であり、社会からは弾かれた存在です。そんな4人が、必要とされなくなったスクラップを再利用して、社会の役に立てようとするのですから、仕事自体が彼らの人生とも重なり合い、自然と肩入れしたくなります。ところが、ドクターは利潤追求に走り、当初の志とは違いが表れ始め、他の3人とも綻びが生じます。

 

本作は、消費社会への批判を含んだ風刺劇になっています。ドクターを次第にヒトラーに模した展開になっているのも、作り手の意図する批評精神が反映されています。同時に、炭鉱の閉鎖、世間に見捨てられた貧しい人々、硬直化したシステムを通して、消費に明け暮れた挙句、精神を失った戦後の日本人の生き方も問われています。基本喜劇ではありますが、重いものを突きつけてくる映画でもあります。