黒幕は誰なのか?「毒戦 BELIEVER」を観て | パンクフロイドのブログ

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毒戦 BELIEVER 公式サイト

 

チラシより

巨大麻薬組織に君臨し、その悪名を轟かせているにも関わらず、誰ひとり本名も経歴も、顔さえ知らない麻薬王“イ先生”。麻薬取締局のウォノ刑事は、組織壊滅のため長年イ先生を追っているが、いまだにその尻尾すら掴めない。ある日、麻薬製造工場が爆破され、事故現場から一人の生存者・ラクが発見される。ウォノ刑事は組織に見捨てられたという青年ラクと手を組み、大胆かつ危険極まりない筋書きによる、組織への潜入捜査を決意する。そこは麻薬に魅入られた狂人たちの巣窟だった―。

 

製作:韓国

監督:イ・ヘヨン

脚本:チョン・ソギョン イ・ヘヨン

撮影:キム・テギョン

美術:イ・ハジュン

音楽:タル・バラン

出演:チョ・ジヌン リュ・ジュンヨル キム・ジュヒョク チャ・スンウォン パク・ヘジュン

2019年10月4日公開

 

※ネタバレを含んでいますのでご注意ください

 

ジョニー・トー監督の「ドラッグ・ウォー 毒戦」のリメイク作品です。オリジナルが徹底した娯楽作品に仕立てたのに対し、本作はその路線を踏襲しつつ、自分は何者なのか?というアイデンティティーのテーマにまで掘り下げています。イ先生とは果たして何者なのか?その謎を終盤まで引っ張りながら、麻薬組織を壊滅するために、囮捜査を強いられるラク(リュ・ジュンヨル)の存在意義にも言及しています。そして、中盤にラクの出自の秘密が明かされると、彼の秘めた思いが如何ほどであったのかを思い知らされるのです。

 

映画の前半の山場は、ウォノ刑事と(チョ・ジヌン)と麻薬取引の仲介役のラクが、中国の闇マーケットの首領ハリム(キム・ジュヒョク)と韓国の麻薬ディーラーのパク常務(パク・ヘジュン)を手玉に取る場面。ハリムとパクが、互いに面識がないのをいいことに、時間差を利用して交渉相手に成りすまし、ウォノの思い通りに取引を成立させるところは圧巻です。取引の最中にも、ウォノが刑事とバレそうなサスペンスも加わるので、自然とスリリングな展開になります。

 

更に、ハリムを演じるキム・ジュヒョクの芝居が突き抜けていて、麻薬の後遺症でイッちゃっている感じを巧く引き出しています。ちなみに彼は2017年に自動車事故で亡くなっており、この映画が遺作となっています。パク・ヘジュンは微妙にチンピラ感を醸し出していて、ニヤついた顔がいい味になっていました。

 

中国からの密輸で上質の原料を手に入れたラクは、早速聾唖者で麻薬作りの天才姉弟に製造を指示。この二人が意外といい奴らで、ラクの母親の死を知ると、即席の葬儀を拵えてあげるのですよ。その一方で、組織のブライアン理事(チャ・スンウォン)はラクを消そうと画策しており、その最中にウォノとラクがハリム一味に拉致されてしまいます。おまけに、一緒に連れ去られた同僚刑事の身分証から、ウォノの正体もバレる最悪の展開になります。このピンチをどのように切り抜けるのかは映画を観てのお楽しみ。

 

映画は基本オリジナルの物語に沿ってはいるものの、聾唖姉弟の工場が爆破された辺りから、香港版とは大きく逸脱した話の流れが見られます。一般の大企業を隠れ蓑にした麻薬組織の実態が明るみに出た事によって、事件は一応の終結を見せるものの、ラストにもう一山見せ場を用意しています。映画は銃声が鳴り響いて終わり、観客の想像を大いに刺激します。観た方それぞれの解釈があると思いますが、余韻の残るラストには哀愁感が漂い、韓国ノワールにおける毒の強さと叙情性に改めて感じ入りました。