吉田磯吉の若き日を描いた「日本大侠客」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

滅びの美学 任侠映画の世界 より

 

 

製作:東映

監督:マキノ雅弘

脚本:笠原和夫

撮影:山岸長樹

美術:宮本信太郎

音楽:菊池俊輔

出演:鶴田浩二 藤純子 岡田英次 大木実 三島ゆり子

        木暮実千代 近衛十四郎 天津敏 内田朝雄

1966年3月10日公開

 

明治29年若松。吉田磯吉(鶴田浩二)は料亭大吉楼に居候をしながら、定職にも就かず、博奕で日銭を稼いでいました。しかも金のけじめがなく、大吉楼から拝借した金や戸畑の闘鶏で稼いだものまで友人の船乗りの亭蔵(大木実)にくれてやるというお人好し。その頃、若松一帯の縄張りを狙う岩万(内田朝雄)は、代貸の義三郎(近衛十四郎)と共謀して、戸畑の土方と若松の沖仲仕を喧嘩させ、漁夫の利を得ようとしていました。

 

二人の思惑どおり、対立が激化しよとした時、磯吉が調停役を買って出ます。戸畑の大滝組には死人が出ており、手打ちをするには莫大な金が必要。さすがの磯吉も窮地に立ちますが、彼の男気に惚れこんだ芸者のお竜(藤純子)が身を売って金を工面します。そして、彼女は三年後の再会を約束して若松を去ります。

 

磯吉の姉スエ(木暮実千代)は、弟に洋食屋を持たせたものの病に臥し、病床で磯吉に女中のおふじ(三島ゆり子)と夫婦になる約束を交わさせてから亡くなります。やがて、磯吉とおふじは所帯を持ち、親友の亭蔵が若松に帰ってきます。磯吉に人望が集まる中、岩万は磯吉による大滝組との手打ちの屈辱を忘れてはおらず、人斬り修次(岡田英次)に磯吉を襲わせます。

 

しかし、おふじが身を挺して守ったため、大事には至らず、磯吉は妻を愛している自分に気づきます。そんな折、お竜が若松に戻ってきます。彼女は磯吉を許すことができず、再び若松の地を離れます。それから数年経ち、若松の街は未曽有の景気に沸きます。同時に、無法者が乗り込んで街が荒れてもいました。

 

岩万一家と沖仲士たちとの対立も激化し、政界の大物代議士・柳川が調停にやって来ます。ところが、磯吉はお竜が柳川の妾になっていることを知らされます。更に、柳川は岩万と義兄弟の仲であることから、沖仲士たちに悉く不利な裁定を下します。苦しい立場に追い込まれた磯吉は・・・。

 

東映版「花と龍」で月形龍之介が演じた吉田磯吉親分の若き日々を描いた任侠映画です。磯吉は人情味がある反面、金にルーズなところがあり、仕事も長続きしないことから、始終姉のスエは頭を痛めています。磯吉はスエから洋食屋の主人を任されても、仲間や知り合いに気前よく振る舞ってしまうため、店の採算が取れません。経営者としては失格の代わりに、磯吉を慕う者は多く、金には変えられない人間関係が築かれています。

 

当然、女にもモテモテで女中のおふじを始め、芸者のお竜も一目惚れさせてしまいます。このお竜が「緋牡丹博徒」と「日本女侠伝」のヒロインを足して2で割ったようなキャラクター。お竜という名前でピストルを携帯していれば、当然「緋牡丹博徒」が連想されますし、お竜ほどストイックではないにせよ、きっぷの良い芸者という設定は後の「日本女侠伝」のヒロイン像とも重なります。

 

藤純子主演の二つの人気シリーズの原型が、本作のお竜の中に表れていることを鑑みれば、この芸者役は藤純子という女優の指針を示す意味で極めて重要な役のように思えます。ついでに言うと、お竜が磯吉の胸に一発だけ弾の残ったピストルを当てて言うセリフも、「仁義なき戦い」の文太さんの「山守さん、弾はまだ残っとるがよ」にも繋がってきます。

 

任侠映画は、しばしばすれ違いの妙が味わえるメロドラマの要素があり、本作にもその傾向がいくつか表れています。お竜が身を売って工面した手打ちの金が、大滝(中村竹弥)の度量の大きさで不要となり、磯吉はお竜に会いに行くものの、既に彼女は旅立った後というすれ違いはほんの一例。

 

磯吉は3年待ってお竜を迎えるつもりでいたのに、瀕死の姉からおふじと夫婦の約束をさせられるのも、主人公の思うままにならない境遇に同情を誘います。そりゃ、今わの際に散々心配をかけた姉から言われたら断れませんわな。でも、お竜からしたら、それは男の裏切りにしか映りません。

 

彼女が代議士の情婦になることは、単なる腹いせの域を出ないものの、代議士が岩万と昵懇の仲であるとなると話は別。代議士が悉く磯吉を始めとする沖仲士に不利になるよう働きかけるため、お竜は間近で磯吉の苦しみを見ることになります。ある意味、最高の復讐ですね。女を怒らせると怖いわぁ・・・。

 

この苦境をどのように乗り切るかが終盤の見どころであり、民の意思を大切にする磯吉親分ならではの活躍が見られます。鶴田浩二による前半のやんちゃぶり、中盤にかけての我慢芝居の落差で楽しませ、天津敏の善人役、番頭役の河野秋武による殺陣、岡田英次の心を熱くさせる助っ人など、普段見られない芝居もたくさんあります。マキノ雅弘監督らしい血の通った娯楽映画を堪能できる一作でした。