日本の利権社会の構図を嘲笑う 「台風騒動記」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

戦後独立プロ映画のあゆみ-力強く より

 

 

製作:まどかグループ 山本プロダクション

監督:山本薩夫

脚本:八住利雄 山形雄策

原作:杉浦明平

撮影:前田実

美術:平川透徹

音楽:芥川也寸志

出演:佐田啓二 菅原謙二 桂木洋子 野添ひとみ 佐野周二 渡辺篤 三井弘次 三島雅夫

1956年12月19日公開

 

のどかな海辺の町ふぐ江に台風が襲来。役場の前には救援物資を求める町民たちで溢れかえります。そんな中、役場の二階の会議室では友田議長(左卜全)の進行で、復興に関する会議が行われていました。森県議(永井智雄)の入れ知恵により、台風災害に便乗して、被災した小学校舎を鉄筋建築に修復する名目で政府補助金を取ろうとする案が持ちあがり、他の議員たちも補助金の恩恵に預かろうと全会一致で可決します。

 

ところが、校舎はほんの僅かに傷んだ程度で、改めて作り直すほど壊れてはいませんでした。一方、教師の志水妙子(野添ひとみ)は、児童や被災された人々のために奔走し、彼女に恋心のある代用教員の里井務(菅原謙二)も協力します。しかし、彼らや児童たちが今までの校舎で授業を再開しようとする願いも叶わず、議会は町長の責任で校舎取壊しを進め、森県議の配下の堀越組が工事を請け負います。

 

その頃、大蔵省から監査官が査察に来る連絡が入り、調査が始まる前に取り壊し工事が前倒しで行われます。やがて、一人の青年がふぐ江のバス停に降り立ちます。この青年吉成幸一(佐田啓二)は、旧友の務を訪ねるために小学校に行こうとしていましたが、町長夫人のみえ(藤間紫)が彼を監査官と勘違いしたために、料亭に連れ込まれ過大な接待を受けます。議会を牛耳る川井釜之助(三島雅夫)からは袖の下を渡され、森県議の愛人である芸者の静奴(桂木洋子)まで駆り出される始末。静奴から裏事情を知った幸一は、その場を立ち去り務の家に厄介になります。

 

その最中、本物の監査官山村(細川俊夫)が小学校に現れ、取り壊された校舎に不信感を抱きます。1000万円の補助金の拠出も怪しくなり、その場にいた務は町長や校長(加藤嘉)から口止めを強要されます。やがて、新校舎の地鎮祭が迫り、PTAを集めた話し合いの席で、一戸一万円の寄付金で工事に着手しようとする話が持ち上がります。町に様々な噂が流れる中、務は妙子に励まされ、隠された秘密を暴露しようとします。

 

災害からの復興を利用して、政・財・官が癒着する構図は、何やら既視感を覚えますね。今でも私立医大の裏口入学に絡んだ文科省と国会議員の事件などを見ると、学習能力や自浄作用が働いていないのが一目瞭然。特に地方議会は、マスメディアの目が十分届いていない分、現在も本作のような結構無茶苦茶なことをやっているのではないかと疑念も生じてきます。

 

この映画に出てくる地方議員は日和見主義者の上に、私利私欲で動いています。本作では地方議会の腐敗ぶりを面白おかしく描いているのですが、他人事と思って笑えないのは、そんな議員を選んでいるのが私たち有権者でもあるから・・・。政治家に託す側も、恥ずかしい候補者を選ばないだけのリテラシーを持ちませんとね。

 

この映画に登場する議員、校長、消防署長、建築会社の社長はそれぞれに思惑があり、必ずしも一枚岩ではありません。県会議員と町議員は、秘かに自分の推す建築業者に工事を受注させようと画策し、対立したかと思えば、落しどころを見つけて手を握り、責任を押しつけられた形の町長は、助役(中村是好)をスケープゴートに仕立て責任転嫁を図るなど、内部抗争もなかなか激しいです。

 

そんな中で、災害状況を査察に来た大蔵省の監査官に対して、金と女で籠絡しようするのが、昭和チックで実に分かりやすい図式。そこに人違いをしたことによって、更に笑いが増してきます。比較的まともな感覚の議長を、左卜全に演じさせているのもユーモアを感じさせます。非情に生臭い話ながら、妙子先生の筋を通す凛とした美しさ、気弱な代用教員の務が力を振り絞って町の有力者たちに立ち向かう姿は、一服の清涼剤となっています。