七夕伝説を巧みに取り入れた 「港祭りに来た男」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター

新春時代劇 傑作選 より

 

 

製作:東映

監督 マキノ雅弘

脚本:笠原和夫

撮影:三木滋人

美術:鈴木孝俊

音楽:服部良一

出演:大友柳太朗 丘さとみ 千原しのぶ 水島道太郎  堺駿二 有馬宏冶 花園ひろみ 赤木春恵

1961年10月14日公開

 

七夕が近づく頃、南国のある港町へ、今年も祭りを盛り上げに、次郎平一座と丑寅一家がやってきました。特に丑寅一家の大力大五郎と名乗る大男(大友柳太郎)は、人々の耳目を集めます。男は片眼に鍔を当てがっており、見廻中の町年寄で横暴な錨屋総右衛門(伊東亮英)を屈服させたため、拍手喝采を浴び忽ち人気者となります。大五郎はお勝(高橋とよ)から漁師の権爺が首を吊って亡くなったことを聞かされると、そのあばら家に赴き、鴨居に刺してある古い短冊に書かれた「お夕」「彦一」の文字に見入ります。

 

一夜明けた鎮守の境内において、大五郎の居合術は見物衆を唸らせ、その評判によって毎年七夕の中日に行われる、藩主の上覧に出ることが決まります。当日大五郎は、無念流極意「真剣白刃取り」の妙技で藩主から褒賞を求められ、側室のお夕(丘さとみ)を名差した上で、鍔を外して彦一であることを明かします。10年前、年若い漁師の彦一は、美しいお夕と未来を誓い合った仲でしたが、その美しさに目を付けた藩主(沢村宗之助)にお夕を奪われ、悲しみと絶望のうちに三日三晩城の前で泣きあかした末、年老いた父を一人残して姿を消した過去がありました。

 

歓声に囲まれて城を引きあげた大五郎は宿に戻り、七夕の故事につながる盆婿の姿でお夕の来るのを待ち受けます。藩主はお夕を側室から解き放ったものの、彼女には未練が残ったまま。彼は大五郎を城に呼び寄せ、今一度大五郎と名乗れば士分にとりたて、家臣と真剣勝負して勝てばお夕と添わせると甘言を弄します。その言葉を聞いた彦一は・・・。

 

七夕伝説をモチーフに、メーテルリンクの「青い鳥」の要素も若干まぶした時代劇です。愛する者を幸福にしたいがために無理をしてしまう男と、貧しくとも一緒に暮らせる幸福を望む女の意識の違いが、悲劇を生む元となっています。より良い暮らしを望んだために、取り返しのつかぬ結果になったのは彦一のみならず、母親を残して丑寅一家の軽業師になった三太(坂東吉弥)、総右衛門の店の金に手をつけた挙句妻子と暮らせなくなった男も同様。そして、男の高望みがいずれも女を悲しませる結果となっています。

 

彦一と丑寅(水島道太郎)の筋書きによって、お夕は籠の中から解放され、彦一も彼女の望むまま漁師として生きる決心をしますが、最後の最後で武士への色気が出たため、それが命取りとなります。それでも、彦一が悲惨な結末に終わるのに対し、同じような立場にいた他の二人は彦一の尽力もあって、人生をやり直せるのがせめてもの救い。豪放磊落なキャラクターに大友柳太朗はうってつけの配役。その一方で、侍になることに固執したため、悔恨と苦渋に満ちた一面も見せます。笠原和夫による情感溢れるシナリオと、マキノ雅弘による詩情豊かな演出が冴えわたる逸品でした。