落語と怪談が結びついた 「江戸っ子繁昌記」を観て | パンクフロイドのブログ

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ともに苦難を乗り越えよう!

神保町シアター

新春 時代劇傑作選 より

 

 

製作:東映

監督:マキノ雅弘

脚本:成沢昌茂

撮影:坪井誠

美術:鈴木孝俊

音楽:鈴木静一

出演:中村錦之助 長谷川裕見子 小林千登勢 平幹二朗 柳永二郎 千秋実

1961年8月26日公開

 

久兵衛長屋に住む魚屋の勝五郎(中村錦之助)は、気風のいい男ですが酒好きと怠け癖が玉に疵。恋女房のおはま(長谷川裕見子)に促され、仕方なく早朝の芝浜へ仕入れに出かけてみると、川の中から大量の小判を発見します。気の大きくなった勝五郎は、長屋にいる金太(千秋実)や虎吉(桂小金治)と朝から酒盛りをします。ところが、勝五郎は旗本の青山播磨(中村錦之助:二役)に見染められてお屋敷奉公にあがった妹のお菊(小林千登勢)のことで、金太と大喧嘩。そのまま酔っ払って寝てしまいます。

 

目が覚めた勝五郎は、拾ったはずの小判がなくなっていることに吃驚仰天。おはまに問いただしてみても、彼女は夢でも見たのではないかと取り合いません。おはまに意見された勝五郎は、そのことがあってから真面目に働くようになりました。その一方で、お菊が長い間里帰りをせずに、夜な夜な勝五郎の夢に現われるのを不安に感じていました。

 

その頃、直参旗本は幕府の新政策によって、不当な扱いを受けていました。幕府に不満を募らせる旗本は、町奴との喧嘩にうっぷんを晴らし、江戸では辻斬りも横行していました。播磨も不満分子の集まる平塚組の宴会に出席し、旗本と町奴の大喧嘩から火事を起こしてしまいます。

 

やがて、勝五郎は青山家用人からお菊の死を知らされます。納得のいかぬ彼は、青山邸に乗り込み播磨と対峙します。勝五郎は播磨から事の真相を聞かされ、播磨が妹を心から愛していたことを悟ります。その直後、仇敵の秋山次郎衛門率いる役人たちが、播磨に切腹を申しつけに、青山邸を取り囲むのですが・・・。

 

落語の「芝浜」と「番町皿屋敷」の物語を取り込み、その結果、喜劇と悲劇の入り混じる不思議な味わいを残す作品になっています。また、借金だらけになりつつも、長屋の者同士が助け合いながら暮らす庶民の生活と、幕府による直参旗本への陰湿ないじめと、そのことに鬱屈する武士の世界が鮮やかに対比されてもいます。

 

映画の見どころは、錦之助御大の一人二役。魚屋の勝五郎の陽気さと、苦悩を滲ませる旗本の播磨との使い分けがお見事です。現実と夢の区別もつかぬおっちょこちょいな面、千秋実と桂小金治相手に酒で酔っ払った際のハメの外し方、妹の死を知らされ禁じていた酒を飲み、無念の涙を流す兄妹愛、幕府の策略に嵌り愛する者を自らの手で斬らざるを得なかった苦渋の姿など、様々な顔を見せます。

 

そして、死に場所を見つけた播磨が、槍を手にして大立ち回りを見せ、愛する者を死に追い込んだ張本人への仇討を遂げるカタルシスと、夢と思われた大金が舞い込み、勝五郎が世のため人のために役立たせようとする粋な終わり方が、哀れな播磨の末路なのに爽やかな印象を残します。また、主役のみならず、家賃の滞納を大目に見てくれる大家(坂本武)、播磨を救うために命を投げ出した勝五郎の妹のお菊、お菊の死を一緒に涙を流してくれる長屋の面々など、江戸っ子の心意気も胸に沁みてきます。