森の石松・金毘羅参り秘話 「清水港の名物男 遠州森の石松」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター

新春時代劇 傑作選 より

 

 

製作:東映

監督:マキノ雅弘

脚本:観世光太

原作:村上元三

撮影:三村明

美術:川島泰三

音楽:鈴木静一

出演:中村錦之助 丘さとみ 田崎潤 原健策 加賀邦男 東千代之介 中原ひとみ 志村喬

1958年6月29日公開

 

遠州森の石松(中村錦之助)は、次郎長(加賀邦男)の命令で金比羅の代参に出立します。次郎長から、道中は酒・ケンカ・バクチを禁じられますが、石松の嫌いな女を買うことだけは許されていました。石松は野宿を重ねて伊勢路へと向かう中、中仙道の別れ道へきたとき、小政(東千代之介)という男と知り合います。彼は石松に女についての講釈を垂れ、恋すること、愛されることの喜びをしみじみと語り、二人はそのまま別れます。

 

石松は讃岐に着き、そこで土地の女郎・夕顔(丘さとみ)に一目ボレします。行きずりの男にも関わらず、夕顔は心底石松に尽くし、石松にとっては忘れられぬ女になっていました。断腸の思いで出発したものの、夕顔からもらった手紙は目を通せずにいました。やがて、石松は身受山の鎌太郎(志村喬)のところへ立ち寄ります。鎌太郎は清水一家の葬儀の際に、やくざの在り方に一石を投じた親分で、石松にも大きな影響を与えていました。彼の身内は皆、漁師や百姓になって働いていて、石松はやくざ稼業の自分を根本から見つめ直す機会を得ます。その晩、夕顔から貰った手紙から、石松は彼女の哀しい素性を知り、鎌太郎が夕顔を身請けし、石松と女の仲を取りもつことを約束します。

 

石松はその話を仲の良い小松村の七五郎(岩井半四郎)のところへ話しに行きます。そこでは小政にも再会し、彼も石松が女を愛するようになったことを喜んでくれます。七五郎は都鳥一家の賭場でできた借金を苦にしており、石松は次郎長一家との繋がりのある都鳥(山形勲)と話をつけに行こうとします。一方都鳥は、石松に恨みのある保下田の久六から、石松の暗殺を頼まれており、都鳥一家は素性が知れぬよう、ヒョットコの面をつけて村の辻堂で石松を襲おうとしますが・・・。

 

「昭和残侠伝」「日本侠客伝」を始めとする数々の任侠もの、やくざものを手掛けたマキノ雅弘が、やくざ否定を謳った映画です。そのことは、石松が金毘羅参りに旅立つ前の前半のうちから如実に表れています。その重要な役を担うのが志村喬演じる身受山の鎌太郎。葬儀を終えた場で、清水一家を前にやくざの義理やメンツが如何につまらぬものか、一家のために命を投げうった結果、残された家族がどんなに辛い思いをするかを、切々と説きます。だからこそ、次郎長が敢えて喧嘩っ早い石松を金毘羅の代参にした意味があり、彼に女を買うことは許しても、やくざにつきものの酒、博奕、喧嘩を強く禁じた理由も腑に落ちてきます。

 

同時にこの作品は、女嫌いだった若者が、愛に目覚める物語でもあります。たとえ女郎でも、ほんの一夜の交情でも、そこに真の愛が生まれ、忘れられぬ仲になることを、錦之助御大と丘さとみの繊細な芝居によって実感できます。石松は次郎長一家の者たちが彼のために集めた金を残らず夕顔に渡し、それに応えるように夕顔も、見ず知らずの客なのにも関わらず、石松を助けたいがために、お礼参りにきたやくざたちに金を与えて追い返すのです。しかもその金は自らの借金となるのを承知で渡しています。

 

二人は別れがたいものの、葬儀に参列してくれた都鳥に、お礼の挨拶に行くため、石松は讃岐を離れなければなりません。別れ際、夕顔は石松に手紙を託し、その手紙が鎌太郎、その娘おみの(中原ひとみ)へと読み継がれてゆく場面は、グッと心が掴まれます。そして、ラストの都鳥一家に襲われる場面。今まで命知らずだった石松が、初めて愛する者ができたことによって、生きる願望が強くなります。同じ闘いの場でも、その意識の違いは大きく、そのことが石松の成長を物語ってもいます。最後に石松が目にする光景はハッピーエンドなのか、死の間際に見せた幻影なのか、判断は観客に委ねられます。