若尾文子が京マチ子をイビる 「婚期」を観て | パンクフロイドのブログ

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角川シネマ新宿

大映女優映画祭 より

 

 

昨年の11月から今年の2月にかけて、都内の各名画座で大映女優の特集が組まれました。

その中でも角川シネマ新宿の“大映女優祭”は、長期間に亘り多くの作品を上映していました。

それにも関わらず、角川シネマ新宿で観たのは「婚期」1本だけ。

角川シネマ新宿はしょっちゅう大映の作品を特集しているため、

いつでも観られるという安心感があり、レアな大映作品を上映したシネマヴェーラ渋谷や

神保町シアターにどうしても足が向きがちになります。

それでもこの作品は、小姑の若尾文子が長男の嫁の京マチ子をイビる設定だけで

早々に観ることを決定いたしました。

 

製作:大映

監督:吉村公三郎

脚本:水木洋子

撮影:宮川一夫

美術:間野重雄

音楽:池野成

出演:京マチ子 若尾文子 野添ひとみ 船越英二 弓恵子 藤間紫 高峰三枝子

1961年1月14日公開

 

唐沢家の静(京マチ子)は、口やかましい小姑の波子(若尾文子)、鳩子(野添ひとみ)を抱え、片時も気の休まる暇がありません。おまけに、夫の卓夫(船越英二)は春山荘を経営する事業家ですが、家の中がゴタゴタしているため帰宅も遅く、なかなか妻の相談にも乗ってやりません。ある日、静の許に一通の手紙が舞い込みます。卓夫が妾を囲っている上、子供までいるという内容でした。その上、二号らしき女から電話もかかってきて、静は心がざわつきます。

 

実は、一連の出来事は静を家から追い出すために、波子と鳩子の仕掛けたいたずらでした。しかし、静が平静を装っているため、二人は焦り出します。一方、静も行き遅れの波子と鳩子を嫁がせて、家の中を平穏にしたいと思っており、二人に縁談を持ち掛けます。自営業の中年歯科医に、波子は乗り気になりますが、お見合いの場に現れた大藪(中条静雄)の頭を見てがっくり。怒りの矛先は静に向けられます。そんな折、卓夫が就寝中に危うくガス中毒になりかけ、波子と鳩子から静が責められます。静の唯一の味方だった婆や(北林谷栄)も、孫の雛子(田中三津子)が結婚し、彼女に引き取られる話が出たこともあり、遂に静は家出してしまいます。

 

京マチ子がいじめられる設定の映画は貴重です。実家をなかなか出ようとしない小姑が、働き者の静を女中のようにこき使うので、自然と観客も彼女に肩入れする気持ちで見てしまいます。ただし、ちょっとトロそうに見えるものの、離婚して一人で生きてゆくか、そのうち嫁に行く夫の妹たちの仕打ちを我慢しながら妻の座に収まるほうが得か、秤にかけるしたたかさも備えていて、腹の内を見せないあたりが京マチ子らしいキャラクターとも言えます。

 

一方、長男の嫁をイビる若尾文子と野添ひとみもいい味を出しています。若尾演じる波子は実家で書道教室を開いている一方、将来の結婚のためにフランス語、料理、洋裁などを習い自分磨きに忙しい29歳の独身女。でも、素敵な男には出会えず、男って見る目がないわとボヤいています。こんな女性、今でも身近にいそうですね(笑)。若尾ほどの美貌ならば、例え眼鏡をかけても引く手あまたと思いますが・・・。

 

野添演じる鳩子は端役しか与えられない劇団女優で、公演チケットを売るためならば、何でも利用しようとする現代っ子。女優も結婚までの腰かけくらいにしか思っていないので、はっきり申して芝居への向上心はありません。この二人による嫁いびりのコンビネーションが抜群で、感じの悪い姉妹をより引き立たせています。

 

船越英二演じる卓夫は、静に内緒で浮気をし続けていて、姉妹の書いた手紙が藪蛇となり、火の粉が降りかかってきます。しかも、愛人の民江(藤間紫)ばかりでなく、他の女にも隙あらば粉をかけている様子。尤も、民江も他の男との間にできた息子を、卓矢の子供と思わせているのだからどっちもどっち。

 

卓矢の姉の冴子(高峰三枝子)は、そんな弟の女癖の悪さを熟知していて、彼の毒牙にかかりそうな若い女性にその実態を見せて、彼女たちを救ってあげてもいます。冴子は離婚経験者だけに、結婚に対して甘い考えを持っておらず、妹たちのグチを聞いてあげたり、静の相談事に乗ってあげたりと、善き相談相手になっています。したがって、唐沢家の人間関係も、それぞれの人物が何を考えているのかも一番把握しています。

 

ちなみに高峰三枝子の入浴シーンがあり、30年以上前に上原謙と出た国鉄のフルムーン旅行のCMを思い出しました。彼女の体が湯に浸かりすぎて、豊満な胸を確認できなかったのは残念です(笑)。そして、唐沢家で静に味方してくれる婆やを演じる北林谷栄も、ボヤキとグチの連発で、コメディ作品として良いスパイスになっています。

 

本作は小気味よいセリフの応酬に見応えがあり、陰湿な家族ドラマになりそうなところを、一歩手前で押しとどめる引き際の良さがあります。コメディ作品らしからぬ修羅場がある割には、あっさりとした腰砕けのような結末に肩透かしを食らわせるものの、水木洋子らしい巧みな脚本、吉村公三郎の職人気質の演出が存分に発揮され、観る者を楽しませてくれます。