容疑者が二転三転した後の結末は・・・?「嫉妬」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

シネマヴェーラ的 大映女優祭 より

 

 

製作:大映

監督:土居通芳

脚本:杉本彰 藤島二郎

原作:九鬼紫郎

撮影:中溝勇雄

美術:黒沢治安

音楽:松村禎三

出演:宇津井健 大空真弓 福田公子 近衛敏明 清水将夫 万里昌代

1962年1月3日公開

 

青年検事の安西(宇津井健)は日高月江(万里昌代)の嬰児殺害及び死体遺棄事件を担当していました。先輩検事の永田(清水将夫)から、情状酌量の余地があるのではないかと忠告されても、執行猶予付きの懲役5年の刑を崩しません。彼にはかつて朝子(福田公子)と言う恋人がいましたが、現在は汚職容疑で手配中の関口(近衛敏明)の妻になっています。そして、朝子の妹・友子(大空真弓)は、不幸な姉のよき理解者であり、安西にも恋心を抱いています。

 

一方関口は、汚職事件を担当している検事が永田であることを知ると、かつて朝子と恋人だった安西を利用して、少しでも自分の立場を有利にすべく妻に働きかけます。朝子を安西と肉体関係に持ち込ませた上で、永田に汚職事件の捜査に手心を加えるよう画策するのです。こうして朝子は安西に逢うものの、昔の恋人に無理に頼むことはあきらめ、しばしの間幸せな時を過ごします。彼女が席を離れた際に、安西は一人の男が朝子に近づき、札束と交換に一冊の本を渡して去るのを目撃します。安西は不審に思ったものの、朝子との久しぶりの再会をきっかけに、再び二人の間には愛の炎が燃えさかります。

 

関口は妻が安西への説得に失敗したことを知るや、昔の恋人と一夜を共にしたことを責め、懐柔する矛先を永田に向けます。やがて、彼は永田の弱みを握り脅迫した矢先、心蔵弁膜症により死亡します。しかし解剖の結果、燐による中毒死と判明。更に調べていくうちに、先日朝子から金をまきあげて行った男が、日高月江を騙した男であり、書物は昔の安西と朝子のことを記した彼女の日記であることも判明します。しかし、男にはアリバイがあり、安西は永田が関口から脅迫を受けていたことを知ると、先輩検事に疑惑の目を向け始めます。

 

一応大映作品となっていますが、スタッフとキャストの顔ぶれを見ても分かる通り、実質は新東宝の製作。映画が公開される前に新東宝が潰れたことでお蔵入りとなり、翌年大映で公開された経緯があります。最後に咲いた徒花の如く、76分という短い時間枠の中で、凝縮された濃厚なサスペンスが繰り広げられます。

 

冒頭、嬰児殺しの女を取り調べる場面で、担当検事が法に基づく厳格な姿勢と、加害者の事情を慮る優しさを持ち合わせていることが如実に伝わってきます。正義漢の表れる検事役に宇津井健はピッタリ。安西にはかつて結婚まで考えた朝子がいたものの、現在は実業家の夫人に収まっています。しかし、妻には夫への愛情はなく、今でも昔の恋人が忘れられずにいます。

 

朝子の妹の友子も安西を好いていて、積極的にアプローチをかけるものの、意中の男は一向に靡いてくれず、益々熱を上げる状態。関口はかつての二人の関係を利用し、汚職事件を自分に有利な方向に持ちこもうとしますが、何の効果も表れず、逆に妻と元カレに焼け木杭に火がつき、お泊りすることに❤。ところが、友子が朝帰りする二人を目にしたことから、後に起きる悲劇の幕開けが・・・。

 

タイトルの「嫉妬」は妹の姉への感情から由来しているものの、憎しみは一切なく、むしろ不幸な結婚生活を送る朝子に同情しています。更にラスト近くに安西に告白する“ある事実”を鑑みれば、前半に見せた彼女の強引なイメージも変わり、切なさが増してきます。安西への交渉が不調に終わった関口が逆襲に転じるかと思いきや、彼が不審死を遂げたことにより、第二幕はミステリー色が強くなります。

 

安西が事件を担当することになり、その過程において様々な事実が浮かび上がってきます。彼の片腕となって裏取りをする刑事役が沼田曜一。東北訛りがあり、実直ですが食えない刑事役を味わい深く演じています。最初は朝子を強請り関口の情婦と通じていた大学生が疑われるものの、アリバイが立証されます。続いて永田が、関口に“あるネタ”を材料に汚職事件の捜査に手心を加えるよう強請られていましたが、こちらもアリバイ成立でシロ。おまけに安西が脅迫ネタとなった書類を取り戻し、先輩検事を不問に付すことに。

 

こうして容疑者が絞られていくうちに、安西にとって考えたくない人物がリストに上がり、苦渋の決断を迫られます。ここから更に二転三転し、その人物も容疑者リストから外され、皮肉な真相に辿り着くまでを一気呵成に見せます。そして、後には一人で罪を背負い、海の藻屑と消えた人物の儚さだけが残ります。