異色の捕虜収容所映画 「戦場のメリークリスマス」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

 

製作:日本 イギリス

監督:大島渚

脚本:ポール・マイヤーズバーグ 大島渚

原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト

撮影:成島東一郎

美術:戸田重昌

音楽:坂本龍一

出演:デヴィッド・ボウイ 坂本龍一 ビートたけし トム・コンティ ジャック・トンプソン

1983年5月28日公開

 

1942年、日本軍はジャワ島の山岳地帯の谷間に、捕虜収容所を設置していました。日本軍の軍曹ハラ(ビートたけし)は、朝鮮人軍属のカネモト(ジョニー大倉)がオランダ兵デ・ヨンを犯した処罰をする際、英国軍中佐ロレンス(トム・コンティ)に証人となってもらうため、彼を立ち会わせます。そこに、収容所長のヨノイ大尉が現れます。彼はハラに事の経緯を後日報告するよう命じて、軍律会議出席のためバビヤダへ向かいます。

 

バビヤダ市内の法廷では、英国陸軍少佐ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)の軍律会議が開廷され、ヨノイは忽ちセリアズに魅せられます。銃殺刑に処せられるはずのセリアズは、ヨノイの尽力によって捕虜収容所へ送られ、医務室で治療を受けます。捕虜収容所に戻ったヨノイは、俘虜長のヒックスリ(ジャック・トンプソン)に、俘虜の中から、兵器、銃砲の専門家の名簿を差し出せと命じますが、ヒックスリは情報の提供を拒みます。

 

やがて、ヨノイはカネモトの処刑をロレンスに言い渡し、処刑場にはヒックスリを始め俘虜側の上級将校も強制的に立ち会わせます。ハラがカネモトの首を切り落とした瞬間、デ・ヨンも舌を噛みきります。礼を尽くすよう命ずるヨノイを、俘虜たちが無視したため、収容所の全員に48時間の謹慎と断食の〈行〉が課せられます。その間、収容所の中で無線機が発見され、疑いをかけられたロレンスとセリアズは独房に入れられます。2人は壁越しに互いの苦い過去を語り合います。

 

クリスマスの夜、2人は独房を出され司令室に連行されます。そこには酒で上気したハラが居て、2人に収容所に帰ってよいと言い渡します。やがて、ヨノイの命令により、浮虜全員が閲兵場に整列させられ、病人たちをかばうヒックスリに、ヨノイは激怒し再び兵器の専門家の名簿提出を迫ります。しかし、またもヒックスリは拒み、ヨノイは処刑のために軍刀を抜きます。二人のやり取りを見ていたセリアズは、ヨノイに歩み寄り・・・。

 

スクリーンで観るのは公開時以来でしょうか。その後、レンタルビデオを借りて一度観たきりで、凡そ30年振りの鑑賞と相成りました。その割には、結構細かい部分までよく憶えているのは、異色な捕虜収容所映画だったからでしょう。捕虜収容所ものは、大体脱走か、収容する側とされる側の対立をメインにしたものが多く、この映画でもそれは一部に含まれていますが、これほど全編に亘ってBL感を醸し出している作品は見当たりません。

 

BLの考察に関しては、その筋に詳しい方々にお任せするとして(笑)、今回の再見により改めて適材適所の配役に唸らされました。どうしても、デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしのような、本職の俳優でない男たちに目が向きがちになりますが、物語全体を動かしているのは、ロレンス役のトム・コンティ。ハラ軍曹との結びつきが強いとは言え、セリアズやヨノイとも満遍なく繋がっていて、俘虜の立場ながら精神的に対等な関係を築き上げています。ヨノイとハラの上司と部下の上下関係、ハラとセリアズの関係の薄さに比べれば、ロレンスと他の三者との関係は非常にバランス良く配置されています。

 

地味ながらも渋くて誠実溢れる対応をするロレンス役に、トム・コンティはぴったりと嵌っています。デヴィッド・ボウイは、正直軍人には見えないものの、ヨノイを惑わす魔性な男の雰囲気は十分。大島渚もそこを重視しての起用だったのでしょう。ボウイに比べ、坂本教授は芝居が硬いものの、それが帝国陸軍の若きエリートとしていい味つけにもなっています。ビートたけしは素の姿を曝け出しているのが功を奏し、ラストも絶妙な笑顔で魅了します。ストップモーションで終わる映画を10本選ぶとしたら、間違いなくこの映画も候補になり得るでしょう。

 

ヨノイと対立するヒックスリ役のジャック・トンプソンは、当初ロレンス役を希望していたようですが、内省的なタイプより、今回のような東洋人を見下し尊大な態度を見せる白人役のほうが相応しいと思います。切腹させられる朝鮮人軍属のジョニー大倉、セリアズを処刑場に連行する三上寛、軍律会議時の通訳の戸浦六宏、ヨノイに心酔している部下の本間優二は、公開時に認識できていたものの、軍律会議の裁判官の一人に内藤剛志がいたことや、ヨノイの後任の所長が室田日出男だったことは、今回初めて気づきました。

 

日本兵の描写に関しては、概ね西洋人が思い描くステロタイプから脱し切れていなく、日本人監督の大島渚には、そこをもう少し手直しして欲しかったと思いますが、彼なりの考えがあってのことでしょう。それでも内田裕也は、軍人に染まらずあくまでも内田裕也なのは流石です(笑)。ロッケンロール!

 

坂本龍一&デヴィッド・シルヴィアン 禁じられた色彩