禁酒法下での役人の矜持が問われる 「アンタッチャブル」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

 

製作:アメリカ

監督:ブライアン・デ・パルマ

脚本:デイヴィッド・マメット

撮影:スティーブン・H・ブラム

美術:ウィリアム・A・エリオット

音楽:エンニオ・モリコーネ

出演:ケヴィン・コスナー ショーン・コネリー チャールズ・マーティン・スミス

        アンディ・ガルシア ロバート・デ・ニーロ

1987年10月3日公開

 

1930年、エリオット・ネス(ケヴィン・コスナー)は、財務省からシカゴに特別調査官として派遣されてきました。禁酒法下のシカゴで密造酒が横行した結果、ギャングたちの勢力争いがエスカレートし、市民の生活を脅かしていたからです。中でもアル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)は、警察の上層部や市長とも通じていて、シカゴのボスとして君臨していました。ネスは密造酒の現場を抑えようとしますが、警察内部にギャング組織へ密告する者がいて、思うような結果を得られません。

 

彼は警察のハミ出し者に着目し、初老の警官ジミー・マローン(ショーン・コネリー)をスカウトし、マローンの伝手を辿り、警察学校から優秀な若者ジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)を引き抜きます。さらに本省からは、ネスの部下としてオスカー・ウォレス(チャールズ・マーティン・スミス)も派遣されてきます。4人のチームは郵便局で行われている密造酒の摘発を行ない、カポネに宣戦布告します。

 

カポネは殺し屋のフランク・ニティ(ビリー・ドラゴ)をネスの身辺に出没させ、無言の警告を発します。ネスは妻キャサリン(パトリシア・クラークソン)と愛娘の安全を苦慮し、家族を直ちにシカゴから脱出させます。それでもチームの捜査は続き、カナダとの国境付近で密造酒の取引現場を急襲し、シンジケートの帳簿と証人を手に入れます。

 

二つともカポネに致命的なダメージを与える証拠となるものでしたが、告訴の準備が行なわれている最中、警察署のエレベーター内でウォレスと証人が殺されてしまいます。更にマローンが帳簿係をつきとめるものの、その直後、彼は自宅でフランクの襲撃を受けます。マローンは今際の際に、カポネの一味が帳簿係を列車に乗せ、シカゴを離れようとしていることをネスに伝えます。ネスはジョージと共に深夜の駅に向かうのですが・・・。

 

約30年振りの鑑賞にも関わらず、面白さは公開当時と変わっていませんでした。デ・パルマにしてはオーソドックスな演出であるものの、所々彼らしい描写が出てきます。マフィアの食事会で、カポネが仲間の一人を見せしめに撲殺した後、天井から死体を俯瞰したショットは、ヒッチコックフォロワーの一面が表れていますし、特捜班の4人が食事をしている際に、テーブルの周りをグルグル移動する映像や、マロリーの家に侵入した際の刺客目線での移動撮影など、随所にデ・パルマのケレン味のある演出が盛り込まれています。

 

極めつけは駅の階段における銃撃戦で、エイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」の“オデッサの階段”を引用して、スローモーションを多用した映像は奇妙な陶酔感を味わえます。名作のあからさまな借用は気恥ずかしくて躊躇うものですが、衒いなくやってのけるのが、デ・パルマの良いところでもあります。銃撃が始まる前の段取りも巧いです。

 

元々、アル・カポネが暗躍した背景には、禁酒法という悪法が罷り通った結果、ギャングが密造酒で財を成し、警察官、裁判官、市長などを買収して、彼らを取り締まれなかった経緯があります。銃をぶっ放すため、エリオット・ネスが警察の一員かFBIと勘違いされそうですが、改めて観ると、彼は不正な蓄財をして税金を納めない輩を取り締まる財務官なのですね。

 

したがって警察官から見ると、管轄の違う役人が現場を取り仕切るのは面白くないわけです。自然とネスの失敗を嘲笑い、密告などの裏切り行為も生まれてきます。ネス自身は禁酒法には懐疑的なのですが、法を遵守する立場の人間として、悪法でも法に違反する者を取り締まらなければなりません。ただし、ネスには法に縛られるお堅い役人のイメージはなく、血の通う人間として描かれています。

 

一方、相棒となるマロリーは、ネスより柔軟な考えを持っていて、死体を利用してギャングの一人を脅すなど、時には汚い手段も厭いません。このマロリーがいたからこそ、ネスが裁判所の屋上にマロリーを射殺した犯人(犯人と断定した小道具の使い方が巧い)を追いつめた時、法の一線を超える行為に至ったことが納得できますし、裁判長と取引をして、不利な裁判を勝ち取る“狡さ”を発揮できたとも思えます。

 

また、ネスが自分の任務を終え警察を去る際に、マロリーの遺品を握手でジョージに受け渡すシーンはグッときますし、ラストに禁酒法の改正を知らせる記者に、ネスが答える一言もシンプルながら胸に沁みます。デ・パルマの作品に触れていない方には、最良の入門編と言える映画でしょう。