閉所恐怖症の方は鑑賞にご注意を 「トンネル 闇に鎖された男」を観て | パンクフロイドのブログ

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トンネル 闇に鎖された男 公式サイト

 

 

チラシより

自動車のディーラーとして働くジョンス(ハ・ジョンウ)は、大きな契約を成功させ、意気揚々と妻のセヒョン(ペ・ドゥナ)と娘が待つ家へ車を走らせていた。しかし、ジョンスが山中のトンネルに差し掛かった時、突如頭上から轟音が鳴り響く。尋常ではない音と揺れに不安がよぎったのも束の間、トンネルは崩落しジョンスは車ごと生き埋めになってしまう。ジョンスが目を覚ますと、周囲は巨大なコンクリートの残骸に囲まれ、手元にあるものはバッテリー残量78%の携帯電話、水のペットボトル2本、そして娘への誕生日ケーキだけだった。一方、トンネル崩落のニュースは瞬く間に国内を駈け巡り、救助隊長のキム(オ・ダルス)らが現場に駆け付けるが、その惨状は想像を遥かに超えるものだった――。

 

製作:韓国

監督:・脚本:キム・ソンフン

原作:ソ・ジェウォン

撮影:キム・テソン

出演:ハ・ジョンウ ペ・ドゥナ オ・ダルス チョン・ソギョン パク・ヒョックォン シン・ジョングン

2017年5月13日公開

 

閉所恐怖症気味の私にとって、狭い空間に閉じ込められる映画は息苦しく感じられます。数年前、「リミット」という映画が公開され、こちらも棺桶に閉じ込められた男が土の中に埋められ、携帯電話で外の世界と連絡を取り、救出してもらおうとする話でした。ただし、全て棺桶の中で話が進行するため、実験的である反面、話に広がりはなく残念な結果に終わりました。

 

※ネタバレしている箇所がありますので、ご注意ください。

 

その映画に比べると、「トンネル」は閉じ込められた主人公のみならず、ジョンスを救出しようとする救助班やマスコミの報道も描いているため、観ていて退屈することはありません。また、ジョンスも最初のうちこそ車の中で身動きできない状態でしたが、後に車から出ることができ、周辺を行き来出来るようにもなります。

 

ジョンスの手元にある食料は娘の誕生日ケーキと2本のペットボトルのみ。これだけで数週間持たせるのは至難の業ですが、ジョンスの他にもう一人生存者がいたことにより、更に困難な状況に追い込まれます。新入社員らしき若い女性に貴重な飲み水を分ける上に、彼女が飼い犬にまで水を所望するので、愛犬家以外の方は若干イラッとさせられるかも。しかもこのワンちゃん、ジョンスが寝ていた間にケーキを食っちゃうし(笑)。

 

更に、この女性はジョンスの携帯電話を借りて、母親と長話するため、観ているこちらは、バッテリーをかなり消費するのではないかとハラハラさせられます。尤も、若い女性の立場からすれば、重たい岩がのしかかったまま身動きできず、ジョンスしか頼る者がいないので、大目に見てあげないといけない部分はあります。彼女自身もジョンスに対して申し訳なく思っていることも見て取れるため、第三者があれこれ言うのはお門違いでしょう。

 

ジョンスの救出は世間の耳目を集め、これを機に政治家が現場にシャシャリ出てきます。更に救出の過程において、トンネルの手抜き工事も発覚し、マスメディアの報道も過熱します。パク・クネを思わせる政治家が登場したり、セウォール号の事故を連想させる人災の面があったり、人命よりも経済を優先させようとする財閥の思惑が働いたりと、パニック映画として描きながら、韓国社会の負の側面を露わに見せている点も本作の特徴と言えます。

 

昼夜を徹しての掘削作業も、設計書通りのトンネル工事が行われていなかったことにより、ジョンスのいる位置から離れた場所を掘ってしまい、更に時間を奪われ、刻一刻と生存期限が迫ってきます。そして、ジョンスの生死が確認できぬまま、同調圧力によって、遂に妻のセヒョンは、トンネル爆破の同意書にサインせざるを得ない状況に追い詰められます。

 

ハ・ジョンウの映画にハズレなしの説を、本作でまたしても証明しています。それでも、本作を力作と認めた上で、細かな不満点も若干指摘しておきたいです。冒頭のガソリンスタンドで、ジョンスはボケ気味の老店員にイラッとさせられ、サーヴィスのペットボトルをぞんざいに扱っています。結果的にペットボトル2本が、ジョンスを生き長らえさせることになった訳で、エピローグとしてもう一度この件にも触れて欲しかったです。

 

また、トンネル内で遭遇した女性のペットのワンちゃんにしても、救出後にペットショップにいるだけでは物足りません。せっかく序盤でジョンスの娘が犬を欲しがっていたという前振りをしていたのですから、娘と絡めた着地をして欲しかったです。尤も、ペットショップのワンちゃんの前にいた女の子が、ジョンスの娘だったら話は別ですが・・・。

 

もうひとつ、ジョンスが同じトンネル内に閉じ込められた女性の存在を、誰にも知らせた形跡がない点も解せません。救助班もマスメディアも、女性の存在はなかったものとして行動しているため、観ているこちらはその点がどうにも気になって仕方ありませんでした。もちろん、女性がもう一人いると分かった時点で、更に話は膨らみ、それに比例して尺が取られるのは承知しているのですが・・・。

 

若干文句をつけつつも、2時間超楽しめたことは確かですし、救出された後に再び車でトンネルに入るシーンにおいて、セヒョンが怯える夫の手を握る描写は、夫婦愛を感じさせ、この物語に相応しい幕引きと言えました。個人的には、韓国社会に批判的な部分が、いちいち的を射ていて、これだけ事実を認識しているのに、現実に反映されていないのはどういうこと?と考えさせられます。