焼けぼっくいに火がつきかける 「カフェ・ソサエティ」を観て | パンクフロイドのブログ

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カフェ・ソサエティ 公式サイト

 

 

チラシより

もっと刺激的で、胸のときめく人生を送りたい。漠然とそんな願望を抱いたニューヨークの平凡な青年ボビーがハリウッドを訪れる。時は1930年代、この華やかなりし映画の都には、全米から明日の成功をめざす人々が集まり、熱気に満ちていた。映画業界の大物エージェントとして財を築いた叔父フィルのもとで働き始めたボビーは、彼の秘書ヴォニーの美しさに心を奪われる。ひょんな幸運にも恵まれてヴォニーと親密になったボビーは、彼女との結婚を思い描くが、うかつにも彼はまったく気づいていなかった。ヴォニーには密かに交際中の別の男性がいたことに・・・。

 

製作:アメリカ

監督・脚本:ウディ・アレン

撮影:ヴィットリオ・ストラーロ

美術:サント・ロカスト

出演:ジェシー・アイゼンバーグ クリスティン・スチュワート ブレイク・ライブリー

        スティーヴ・カレル パーカー・ポージー

2017年5月5日公開

 

※ネタバレしていますので、未見の方はご注意を

 

ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)が娼婦を部屋に招き入れた後のやりとりが、いかにもウディ・アレンの分身のようなこじらせ具合を見せるため、思わず笑ってしまいます。ボビーの叔父のフィル(スティーヴ・カレル)は、ハリウッドの著名人のエージェントをしていて、会話の中にやたらと有名なプロデューサー、監督、俳優、女優の名がポンポン入り込んで来ます。

 

甥っ子はフィルの雑用係として働く一方で、叔父から紹介されたヴォニー(クリスティン・スチュワート)に一目惚れします。ボビーは彼女に恋人があると知りながら、何とか自分に振り向かせようと努めます。ヴォニーはボビーにフィルが恋人であることを隠しており、フィルから妻との離婚話を聞かされると、彼と一緒になることが現実味を帯びてきます。しかし、フィルは後に離婚話を撤回してしまい、ヴォニーは失意のどん底に突き落とされます。事情を知らないボビーは彼女を慰め、自然と二人はいい仲に・・・。

 

ところが、ヴォニーをあきらめきれないフィルは、甥っ子が彼女と懇ろになっているのを知り、妻との離婚話を蒸し返した結果、ヴォニーはフィルを選んでしまいます。ヴォニーとフィルの関係を知らずに、キューピッドの役割を担い、道化になってしまうボビーが何とも切ないですね。虚飾にまみれたハリウッドに嫌気が差したボビーは、故郷のニューヨークに戻り、兄の伝手でクラブの支配人を任され辣腕を振るいます。奇しくも元カノと同じ名前のヴェロニカ(ブレイク・ライブリー)がボビーの前に現れ、またしても彼は彼女に一目惚れしてした挙句、デキ婚に。

 

子供が生まれ、事業を拡大し、順風満帆に思えたボビーでしたが、フィルとヴォニーの夫妻が店を訪れたことで、再び波風が立ち始めます。このくだりは「カサブランカ」を思い起こさせ、現在と過去を割り切れる女と、過去を引きずる男との違いが如実に表れます。フィルが多忙のため、ニューヨーク滞在中に、ボビーがヴォニーの相手をすることになり、焼けぼっくいに火がつきそうになります。

 

しかし、昔と違いボビーは妻子がいる身。ウディ・アレンは二人の恋の行方の前に、ボビーの兄が死刑執行寸前にユダヤ教からキリスト教に改宗して、来世に望みを託すエピソードを挟み込みます。このエピソードを加えたことにより、ラストにおいて、ボビーとヴォニーが別々の場所にいながらも、同じ想いを共有する描写が効いてきます。

 

ボビーの兄がギャングという設定のせいか、従来のアレン作品より、血生臭い表現が多め。その反面、1930年代の雰囲気を再現したゴージャスな映像に酔わされます。多ジャンルに挑戦するクリント・イーストウッドに比べ、ウディ・アレンは自分のスタイルを変えませんが、安心安定の映画という点ではどちらも共通しています。