ロクデナシの男たちと健気な女たちの闘い?「青い乳房」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

追悼 鈴木清順 史淳美学・その胎動期から開花まで より

 

 

製作:日活

監督:鈴木清順

脚本:鈴木兵吾 津路嘉郎

原作:一条明

撮影:永塚一栄

美術:中村公彦

音楽:間宮芳生 平岡精二

出演:小林旭 稲垣美穂子 渡辺美佐子 二谷英明 小高雄二 小沢昭一 初井言栄 高友子

1958年9月8日公開

 

堀江耕造(大森義夫)は若くて美しい容子(渡辺美佐子)を後妻にもらい、高校生の息子・宏(小林旭)も継母に懐いているようでした。ある日、宏と容子が買物に出かけた際、宏の本音が表れます。宏は容子から金を巻き上げ、封筒を手渡してその場から立ち去ります。宏は街で出会った見知らぬ女子高生の節子(稲垣美穂子)を誘い、ジャズ喫茶“フォンテーヌ”に行きます。

 

彼女の母(初井言栄)は若い情夫・杉村(小沢昭一)を家に引っ張りこんでおり、節子はそんな母親に反抗して不良になってやると宏に宣言します。フォンテーヌの二階では、マダムの美智(高友子)の情夫ジャックの健(小高雄二)が、ブルーフィルムの編集をしていました。実は、宏に義母から金を巻き上げるように入智恵をしたのは健でした。

 

その頃、容子は宏に渡された封筒の中の招待状を見て、展覧会場を訪れます。容子は一枚の風景画の前に釘つけになった後、失神してしまいます。彼女は7年前に、その風景の場所で何者かに犯された過去があったからでした。やがて容子は意識を取り戻し、彼女を介抱した高村(二谷英明)がその絵を描いた本人と知り、彼を罵倒してその場から逃げ去ります。その後、高村は容子をアトリエに招待し、事件当時フランスにいたと身の潔白を証明します。

 

やがて、容子は健から10万円の脅迫を受け、高村に相談するうちに、二人の仲は急速に進展します。一方、宏と節子も日一日と親しくなっていきました。節子は母である富子に杉村と別れるようにすすめ、宏にも不良の世界から抜けるように頼みます。宏は健に足を洗うことを伝えますが、健は耳を貸そうとしません。

 

そんなある日、節子は富子から杉本を殺害したとの電話を受けます。宏は節子の母親の弁護料を工面するため、健から聞いた7年前の話をネタに、容子から5万円をせびって節子に渡します。後日、宏を待つ節子は、フォンテーヌの二階で健の子分に乱暴され、その様子を健が撮影します。節子はその夜自殺を図りますが、一命はとりとめます。容子は節子の自殺未遂を知ると、自分のことが明るみに出るのも構わず、宏と節子を救うために、健からフィルムを取り戻そうとするのですが・・・。

 

主演は高校生役が初々しい小林旭ですが、数々の災難が降りかかってくる渡辺美佐子に惹きつけられます。渡辺美佐子演じる容子に限らず、本作は女たちにとっての受難劇と言えます。節子は自殺まで思い詰めるほどの辱めをされ、彼女の母親は甲斐性なしの情夫から始終金をせびられ、美智も健から冷たい仕打ちを受けています。

 

それに対して男たちは、父親の不在の影響で不良の道を歩んでいます。宏には父親がいるものの、後妻にばかり構うため、疎外感を覚え容子に辛くあたります。また、健は父親が女中に産ませた子供だったため、常に日陰を歩かされてきており、世の中を冷めた目で見ています。宏と健は先輩後輩の関係に留まらず、美智が嫉妬するほど強い絆があります。ホモソーシャルと言うよりは、似たような境遇が二人を結びつけている感じです。健が宏のガールフレンドをブルーフィルムに撮ろうとしていた意図も、健との仲が節子によって脅かされるのを、本能的に感じ取った末の行動とも思えます。

 

その一方で容子は、母親を援助するお金のために、健の父親と結婚に踏み切った経緯があり、夫への愛情は然程あるわけでもなく、過去の忌まわしい出来事をネタに脅迫されたことで、次第に画家の高村によろめいていきます。高村は一見温厚で、容子の相談相手に相応しく思えるのですが、彼もまた健や杉本のようなダメンズであることが明らかになっていきます。

 

謂わば、この映画は健気な女たちとダメンズとの闘いでもあり、最終的に女性陣の勝利に終わります。容子は自分が犠牲になっても義理の息子のためにフィルムを取り戻そうとしたことで、宏から母親であることを認められ、節子の母親は情夫を始末したことで娘からの愛情と信頼を再び得て、美智は健の子供を産むことに固執したことで彼を更生させてしまいます。

 

話の流れから悲劇的な結末に向かいやすいですが、意外と爽やかな着地をします。容子と宏の関係が修復することはある程度予測できますが、健まで改心するとは思いませんでした。小高雄二はピエール瀧のような雰囲気があり、彼が演じる健は酷い男ではありますが、根っからの悪党というには微妙で、後から考えると改心もそんなに飛躍したものではないかもしれません。ただし、改心したことを示すあるセリフには「お前が言うな」と心の中でツッコミを入れておきました(笑)。

 

それよりも日活のエースと言うべき小林旭と二谷英明が、思いの外感じ悪く描かれていたのには、少々驚かされました。序盤の宏の行動は裏表があって嫌な感じですし、高村も最初は好印象をあたえながら、最終的にロクデナシだったことが判明します。映画の中で60年前の池袋の風景が頻繁に出てきて、しかも西武デパート前のロータリーやガード下など、見慣れた場所が映し出されるため、その映像を池袋の新文芸坐で見ている自分に奇妙な感覚を覚えました。