童貞のこじらせが大人たちを追いつめる 「積木の箱」を観て | パンクフロイドのブログ

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角川シネマ新宿

溝口健二&増村保造 映画祭 変貌する女たち より

 

 

製作:大映

監督:増村保造

脚本:池田一朗

原作:三浦綾子

撮影:小林節雄

美術:下河原友雄

音楽:山内正

出演:若尾文子 緒形拳 松尾嘉代 内田朝雄 内田喜郎

1968年10月30日公開

 

北海道の観光事業を牛耳る佐々林豪一(内田朝雄)は、定期的に転居を繰り返していました。息子の一郎(内田喜郎)や娘のみどり(梓英子)は、転校させられるたびに不満に思っています。ある日、一郎は父と長姉の奈美恵(松尾嘉代)が抱きあっている現場を目にして、ショックを受けます。姉のみどりから奈美恵が少女時代に豪一に拾われた娘で、現在は父親の愛人となっていることを知らされます。更に、母親のトキ(荒木道子)も黙認していることを聞かされると、その日を境に一郎は家族と一緒の食卓につくことを拒否します。

 

家で食事もしなくなった一郎は毎日パンを買い、その店で働く久代(若尾文子)の幼い子供を助けたことをきっかけに彼女と親しくなります。しかし、一郎が佐々林豪一の息子であることを知ると、久代は何故か顔を曇らせるのです。一方、一郎の変化に気づいた担任教師の杉浦(緒形拳)は、家庭訪問した際に佐々林家の異様さを知り、一郎を心配します。そんな教師の心遣いをよそに、一郎は久代の店にちょくちょく立ち寄り談笑する杉浦を敵視し、尚一層反抗的になります。

 

純真ゆえに家族に憎しみを抱く弟に対し、みどりは大人たちのすることを無視しろと忠告しますが、一郎は奈美恵を父から奪うと宣言します。しかし、搦め取られたのは一郎のほうでした。彼は奈美恵の色香に迷い、筆卸しをしてもらうと、父と奈美恵との関係に嫉妬心を燃やします。二度と父と寝ないと約束させたにも関わらず、秘密部屋で関係していることを知ると、奈美恵に詰問しますが、彼女は一郎の責めを躱すように、ある秘密を打ち明けます。その事実を聞かされた一郎は自暴自棄になり、父の名を汚すため、杉浦が宿直をする学校に放火します。

 

ドロドロした家庭の崩壊劇ですが、ホラーにしてもやり過ぎると笑いに転化するように、童貞少年のこじらせ具合が絶妙なスパイスになっていることもあり、所々笑いたくなる箇所もありました。冒頭の食卓のシーンで、家族の会話から奈美恵が年の離れたお姉さんかと思って観ていると、次のシーンでは父親とまぐわっていて、一郎ならずとも「え~っ!」と驚かされます。彼女は世間体のため、姉と偽った妾であることが明らかになり、その事実がバレないように、一家が頻繁に転居していることも腑に落ちます。

 

冒頭で奈美恵を正体不明の女にした効果はテキメンで、私なぞ一郎目線でこの映画を観る羽目になりました(笑)。思春期特有の潔癖さをこじらせた挙句、大人たちに反抗的な態度をとる行動がいちいち私のツボにハマり、ニヤニヤしながら楽しめるのです。教師の杉浦は一郎を心配して、親身になって相談に乗ろうとしますが、一郎が淡い恋心を抱く久代の店に、杉浦がちょくちょく来るため、ライバルとして対抗心を燃やし、教師の好意を素直に受け取れません。この教師の言うことは、一々尤もと思うのですが、正論過ぎてイラッとくる、あの感じがあるんですよねぇ。基本的に杉浦を支持したくても、反発を覚えてしまうのは、私も一郎の中二病が感染した証拠?(笑)。

 

DTは奈美恵を不潔に思う反面、大人の女の魅力に抗うことができず、父親の愛人と関係を持ってしまいます。心と下半身は別物というあまりにも分かりやすい図式に苦笑しつつも、松尾嘉代が同じ屋根の下にいて誘惑されたら、DTなぞそりゃイチコロでしょうよ。この映画での松尾嘉代のあばずれ感は天晴れと言いたくなります。元々、家庭崩壊の諸悪の根源は父親の豪一にあり、彼が女に目がないことから、少女の頃に佐々木一家に引き取られた奈美恵も、ある意味被害者の一人でもあります。内田朝雄はフィクサー的な悪役の似合う役者であり、本作でも影の大物感を漂わせていることに変わりはありません。ただし、この作品ほど女好きを前面に出した役柄は珍しいでしょう。

 

さて、肝心の若尾文子は、松尾嘉代と好対照を為す役にも関わらず、彼女に比べると少々影が薄いと言わざるを得ません。子供と一緒にひっそりと暮らす女という役のせいもあり、見せ場は少なく、どうしても地味な存在になりますし、物語も若尾ではなく少年中心に回るため脇に置かれます。最終的に一郎は、自ら犯した罪にケジメをとることによって、家庭崩壊の幕引きをします。でも、よくよく考えると、彼の家庭は裕福ですし、松尾嘉代に筆卸しをしてもらうし、結構美味しい思いをしていますよね。ちょっと同情してしまった自分がマヌケに思えてきます(笑)。