「からっ風野郎」「爛」を観て | パンクフロイドのブログ

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角川シネマ新宿

溝口健二&増村保造 映画祭 変貌する女たち より

 

今回の特集では、増村保造&若尾文子コンビの未見作

「からっ風野郎」「積木の箱」「爛」を観たかったので

その目的は果たせました。

このコンビで観ていないのは

「氾濫」「偽大学生」「好色一代男」「華岡青洲の妻」で

どうやらコンプリートも見えてきました。

 

からっ風野郎

 

製作:大映

監督:増村保造

脚本:菊島隆三 安藤日出男

撮影:村井博

美術:渡辺竹三郎

音楽:塚原哲夫

出演:三島由紀夫 若尾文子 船越英二 川崎敬三

1960年3月23日公開

 

朝比奈一家の二代目武夫(三島由紀夫)は、新興ヤクザ相良商事の社長・相良雄作(根上淳)に傷を負わせた罪で服役していました。相良は殺し屋を雇い、面会に見せかけ武夫を殺そうとしますが、武夫の代わりに面会に来た囚人を殺してしまいます。武夫は身の危険を感じ、出所すると居所が知れないように情婦の昌子(水谷良重)と手を切って、組が経営する映画館の一室に身を潜めます。

 

彼はもぎりをしている芳江(若尾文子)と出会うものの、彼女は町工場に勤める兄の正一(川崎敬三)に弁当を届けに行った際、ストライキに巻き込まれ留置所に拘置されてしまいます。武夫は叔父貴にあたる平山(志村喬)に、相良のタマを獲るようせっつかれますが、なかなか決心がつきません。

 

そんな折、大親分・雲取(山本礼三郎)からの法事の招待状が届き、相良も出席することを知り、ようやく殺しの踏ん切りがつきます。ところが、相良は寺には来ず、代理として現われたのは殺し屋のゼンソクの政(神山繁)でした。武夫は命の危険に曝されますが、幸い軽傷に終わります。彼は再び身を隠したところに、芳江がもう一度雇ってくれと頼みに来ます。武夫は強引に彼女を抱き、一度は反発を見せた芳江も、徐々に武夫のことを好きになり始めます。

 

そんな折、相良商事が薬品会社から金を強請っていることを嗅ぎ付けた武夫は、芳江とのデートの際に、偶然相良の娘を見つけ、彼女を人質にとって試作品の薬をよこすよう要求します。しかし、取引は雲取の仲裁によって両者手打ちとなり、武夫は分け前の半分を、相良は半分の分け前から、更に雲取に手数料を差し引かれます。

 

やがて、芳江が妊娠すると、武夫は子供を堕ろすよう迫ります。しかし、芳江は武夫の願いを聞き入れず、武夫は根負けして彼女と所帯を持つことを決意します。ところが、相良は芳江の兄を監禁し、朝比奈一家の愛川(船越英二)が経営するトルコ風呂の権利をよこせと要求しに来ます。

 

ストーリーよりも否応なく“俳優”三島由紀夫に注目せざるを得ない一作。立原正秋は「男性的人生論」の中で、三島をモデルにして篠山紀信が撮影した<聖セバスチャンの殉教><溺死>を引き合いに出して、「何故この人は俳優にならなかったのだろう」と述べていただけに、彼中心に映画を観ました。

 

ただし、写真の被写体としていい絵にはなっても、動きや台詞を伴う映画は全く別物。“大作家”三島由紀夫の威光があればこそ、こちらも興味を持って観ることができますが、その枠組みを取っ払うと普通の役者に感じられます。作家が演じたにしては悪くはありませんが、主演を張るには少々辛いものがあります。

 

ただし、娑婆に出て命を狙われ怯える若親分という役を、三島に割り振ったのは、増村保造監督の慧眼と言えます。三島自身、強さを自己顕示する傾向にあり、それがボディビルで体を鍛えたり、自衛隊への入隊となって表れたりした節が見受けられるからです。本作の武夫も、自分が傷を負わせた相手の報復に怯えつつ、自分が臆病者でないことを誇示したがります。時には負けたくない気持ちが昂じて、敵対相手の娘を人質にとって、取引を持ちかける卑劣な手段も行使します。

 

最終的に若親分は、単身で殴り込みに行くか、権利書を渡して堅気になるかの選択を迫られます。彼は女のために後者を選択するものの、これですんなり取引成立とは行きません。エスカレーターを効果的に使ったラストは、やくざの非情な世界を思い知らされ、志半ばで自決した三島の最期とも折り重なります。作家の余技と言いたくなる一方で、三島自身を反映する作品でもあり、彼の主演映画という一点のみでも、存在価値のある作品のように思います。

 

 

 

製作:大映

監督:増村保造

脚本:新藤兼人

原作:徳田秋声

撮影:小林節雄

美術:下河原友雄

音楽:池野成

出演:若尾文子 田宮二郎 水谷良重 船越英二

1962年3月14日公開

 

キャバレーの売れっ子ホステスだった増子(若尾文子)は、浅井(田宮二郎)と結婚するため店を辞め、彼が借りたアパートで暮らしていました。ところが、浅井に妻がいることを知り、彼に不信感を抱き始めます。また、ホステス時代の友達・雪子(丹阿弥谷津子)も近くの安アパートで歌手あがりの青柳(船越英二)と生活をしており、彼らの疲れた様子を見るにつけ気が滅入るばかりでした。

 

そんなある日、浅井の妻・柳子(藤原礼子)が増子のアパートに様子を窺いに来ます。浅井は本妻の柳子には嫌気が差しており、嫉妬に泣きわめく妻との生活を清算しようと、弁護士を立てて柳子と協議離婚をします。浅井と増子は環境の良いアパートに移り住む一方、柳子は郷里の座敷牢で狂い死にします。増子は友達の芳子(弓恵子)を訪ねた際、彼女が年の差のある夫の死後も、財産分与に支障をきたさないよう、子供を産むつもりだと聞かされ大いに触発されます。自分が妻の座に収まっても、浅井の女癖の悪さを考えると、増子も安泰とは言えませんでした。

 

そんな折、増子の姪の栄子(水谷良重)が訪ねて来ます。果樹園の息子との縁談を嫌って、家を飛び出して来たのでした。栄子は浅井の許しを受けて増子と一緒に生活することになります。増子は子供を産める体に戻してもらう手術をうけるため入院しますが、その留守中、浅井が栄子と関係を持ってしまいます。

 

浅井の妻が怨念のこもった嫉妬から、常軌を逸した行動に走る姿はまるでホラー映画。浅井に非があるとは言え、彼にちょっぴり同情してしまいます。疲れた体で帰宅しても、こんな嫁が家で待っていたら、そら居つかなくなるわな。また、せっかく妻の座を獲得した増子も、前妻が嫉妬の果てに狂死したとあっては、寝覚めの悪い事この上ありません。増子は昔のホステス仲間の雪子や芳子が、どのように情夫と暮らしているか知っているだけに、二号の生活に戻りたくない反面、結果的に本妻を追い出したことに痛みも覚えています。

 

その最中に、姪の栄子が訪ねてきたことによって、柳子と同じ立場に置かれるのが何とも皮肉。増子自身も脇が甘い面があり、家出してきたとは言え、年頃の娘と女好きの夫を同じ屋根の下に住まわせるのですから、自業自得と言えなくもありません。夫婦の営みの声が漏れてくれば、栄子も妙な気持ちになろうと言うもの。果たして栄子のほうから誘ったのか、浅井が強引に関係を持ったのかは俄かに判断できませんが、姪と知りながら手を出した浅井に分が悪いのは確か。

 

二人の関係を知るや(現場に踏み込まれたのだから言い訳はできませんよね)、増子は栄子を狂ったように打ち据えます。浮気した夫より、相手の女を責めるのが適切かどうかはともかく、嫉妬に狂っても文子様は般若に変わるどころか、美しさを増すのが何ともエロティックです。結局増子は、栄子を果樹園の御曹司と結婚させることによって、浅井との関係を断ち切ることに成功するものの、また別の新しい女が夫の前に現れる可能性がないわけではありません。どんよりと淀んだ空気のまま幕を閉じるのが実に印象的。増子の平穏は当分の間訪れそうにありませんね。