米軍基地のある街 「俺たちの荒野」「黒い雪」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

戦後70年企画 第三部 戦後の風景と、人々の暮らし より


俺たちの荒野


俺たちの荒野


製作:東宝

監督:出目昌伸

脚本:重森孝子

原案:中井正

撮影:中井朝一

美術:竹中和雄

音楽:真鍋理一郎

出演:黒沢年男 酒井和歌子 東山啓司 赤座美代子 原知佐子

1969年6月28日公開


哲也(黒沢年男)と純(東山啓司)は、どちらも集団就職で上京した青年。それ以来二人は親友となりました。哲也はアメリカに行くのを夢みて、ホステスのサチ(赤座美代子)と同棲しながら、昼は米軍基地に、夜はバーのバーテンとして精力的に働いています。


一方純は、基地の脇にある小さな荒地に自分の城を建てることを夢みて、自動車整備工場で働いていました。そんなある日、純はその荒地で由希(酒井和歌子)と知り合います。姉の経営する美容院で働く由希にとっても、この荒地は唯一くつろげる場所であり、二人は互いの夢を語りあいます。


しかし、純には土地の頭金を用意するだけの金もなく、哲也は純のために自分が渡米用に貯めた金を元手にして、競輪で一発当てようとします。哲也の目論見は当たり、土地の頭金を揃えるだけの金を手に入れます。哲也は更に金をつぎ込んでで倍にしようとしますが、純は頭金がなくなるのを怖れ、哲也の指示した車券を買わずに、不動産屋に直行します。哲也が指示した車券は大当たりするものの、純が購入しなかったことによって哲也の渡米費は泡と消えます。


それでも、二人の仲は揺らぐことなく、由希も含めて三人でこの土地を手に入れようと約束します。純は由希に好意以上のものを感じ、由希も純の愛を受け入れようとします。しかし、純は由希に愛を伝える術を知らず、哲也は純の悩みを知って由希の家に乗込みます。意気込んで純の気持ちを伝えに来たものの、同棲しているサチには望めない由希の家庭的な一面を知り、哲也は彼女に友人以上の感情を抱くようになります。


一方、哲也の素振りの変化に気づいたサチは、チンピラたちを使って由希を慰み者にしようとします。そのことを知った哲也は、チンピラたちを叩きのめし、間一髪由希の純潔は守られます。哲也を忘れられないサチは、純に愛のはけ口を求めます。哲也がサチのアパートに戻ると、ベッドの中には純とサチが眠っていました。その日から哲也は基地の中にこもってしまいます。由希は土地代にするための金を工面すると、基地の外で哲也を待ち続けます。


やがて、彼女は基地の外に出てきた哲也に金を渡し、純に届けるよう頼みます。紆余曲折の後、3人は陽光を浴びながらピクニックに出かけます。そして、陽も暮れかかる頃、突然純が思いもよらぬ行動を取るのです。


2本立てで「黒い雪」と共に観たのですが、同じ米軍基地の周辺に生活する人々を描きながら、米軍に対する表立った批判の描写は、ほとんど見られませんでした。映画が公開された年は、東大の安田講堂の封鎖が解除されたことを契機に、学生運動の沈静化に向かった時期で、大学での闘争は労働者として働いている哲也、純、由希には無縁の世界でもありました。


哲也と純は集団就職で上京して親しくなった経緯があり、二人のホモソーシャル一歩手前のじゃれ合いが何とも微笑ましいです。まだ沖縄が返還される前の時期において、哲也が金を貯めて渡米しようとするのに対し、沖縄出身の純が本土の土地を買って、一国一城の主になろうとするのも興味深いです。


哲也と純の関係は、女性から見ると、嫉妬したくなるほどの親密さで、由希と知り合ったことで、二人の関係のバランスが狂い出します。更に哲也と同棲しているサチが、哲也と由希の仲を邪推したために、哲也、純、由希の関係にも亀裂が生じます。


それでも3人の関係は修復されたかに見えましたが、終盤における純の唐突な行動が、残された者たちに大きな喪失感をもたらします。3人は学園紛争とは無縁の世界で生活していますが、それでも大学生とは異なる挫折感をそれぞれ味わいます。60年代末の東宝の青春映画にしては恋愛模様の甘さが抑えられ、従来の東宝の殻を打ち破った青春映画の意欲作と言えます。



黒い雪


黒い雪


製作:第三プロダクション

配給:日活

監督・脚本:武智鉄二

撮影:倉田武雄

美術:大森実

音楽:湯浅譲二 八木正生

出演:花ノ本寿 紅千登世 村田知栄子 美川陽一郎

    松井康子 内田高子 野上正義

1965年6月9日公開


崎山次郎(花ノ本寿)は、母親の弥須(村田知栄子)が経営している売春宿の一室から、娼婦のユリ(内田高子)と黒人の軍曹との一戦を覗き見していました。次郎は母親から新しく入った皆子(滝まり子)を紹介された後、彼女を部屋に案内し、早速口づけを交わします。弥須の妹由美(水町圭子)は駐留軍の将校と懇ろの関係にあったため、将校から軍の品物を横流ししてもらい、秘密裡に売りさばいていました。


次郎は時折、ハイヤーの運転手堀田(美川陽一郎)と娘の静江(紅千登世)とのやり取りを見て、彼女の清純さに魅かれます。彼は身体の弱い静江を映画館に誘い、暗闇の中で愛撫をして彼女を虜にします。その後、次郎は知り会いの黒瀬(沢律生)の頼みを聞き入れ、母親と娼婦たちが観劇に行った留守の間に、静江を部屋に招き入れ、灯りを消して黒瀬とすり替わります。静江はてっきり次郎に抱かれていると思ったものの、灯りをつけた途端別人と分かり、裸のまま部屋を飛び出します。


鬱屈した思いを抱える次郎は、ユリを抱いた黒人軍曹を殺した後、黒瀬と山脇(野上正義)と共に、由美のキャバレーを襲います。2万ドルの金を奪い取った後、次郎は叔母に挑みかかります。その上、事の最中に黒人の軍曹から奪った拳銃で、いきなり由美を射殺するのです。次郎は静江にかわる理想像を、娼婦の皆子(滝まり子)に求めようとしますが、その矢先2方ドルの公金紛失と、殺人事件の容疑によって米軍に捕えられてしまいます。


本作が劇場公開された際、監督の武智鉄二と配給を担当した日活の部長が起訴され、裁判になった曰く付きの問題作。とは言え、問題の焦点となったわいせつ描写に関しては、現在の我々から見れば大したことはなく、むしろ露骨なまでの反米描写のほうに驚かされます。


検察が性描写の面を口実にして、反米感情の強く出ている本作を葬りたかったのではないかと勘繰りたくなるほど、アメリカに対して痛烈な批判を浴びせている作品なのです。その一方で米軍基地を必要としている人々の声も、僅かではありますがちゃんと伝えています。


劇中では絶えず基地を行き来する米軍機の騒音が飛び交い、観ているこちらも否応なく、基地の周辺に生活する人々と同じ状況下に置かれます。神経を逆なでする音を、絶え間なく聴かせられることによって、米軍に対して自然と不快な思いをするという、武智監督の狙いはある程度成功しています。


米軍機の離発着のみならず、本作ではその他の音の効果も絶大です。対象となる映像は一切見せずに、音やあえぎ声のみでエロティックな気分にさせる演出は結構あります。同時に主人公の次郎が不能者ではないかと疑惑を抱かせもします。


彼はイケメンで女のほうから寄ってくるのに、キスまでの描写はあっても、SEXまでには至っていません。叔母の由美を犯そうとするものの、フィニッシュの前に殺してしまいます。あまりにも男女の性行為が身近にある環境にいるため、自ら女と体の関係を持つことは現実感に乏しく、逆に覗き見することや、部屋の壁から漏れてくる女のあえぎ声に興奮するのかもしれません。


静江が全裸のまま、米軍基地を疾走するのは、この映画の中でも白眉となる名場面。次郎や彼に関わる人物たちが、そのまま日本とアメリカとの関係に重なる部分もあり、一筋縄では行かぬ作品となっています。