金庫破りの準備段階が面白い 「ギャング対Gメン 集団金庫破り」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷 OIZUMI 東映現代劇の潮流 より


ギャング対Gメン 集団金庫破り


ギャング対Gメン 集団金庫破り


製作:東映

監督:石井輝男

脚本:村尾昭

撮影:山沢義一

美術:中村修一郎

音楽:八木正生

出演:鶴田浩二 丹波哲郎 江原真二郎 梅宮辰夫 杉浦直樹

    曽根晴美 佐久間良子 十朱久雄 田中春男 加藤嘉

1963年2月23日公開


白昼、囚人護送車が襲われ、警官が射殺された上、金庫破りの名人南京虫のジョージ(田中春男)が脱走します。警察は金庫破りの前科者をしらみつぶしにあたり、尾形刑事(加藤嘉)も以前逮捕した菊川(鶴田浩二)のもとに出向きます。菊川は既に更生していたものの、射殺された警官が幼なじみであることを知り、尾形が提案してきた潜入捜査の案に乗ります。


菊川は尾形刑事から渡された資料をもとに神戸に赴き、金庫破り前科四犯の矢島(江原真二郎)と接触します。菊川は矢島にしばらく姿を消すよう忠告し、矢島になりすまして、一味が接触してくるのを待ちます。一方、一味のリーダー菅沼(杉浦直樹)から矢島を探すよう指令を受けた松井(十朱久雄)は、矢島の顔を知らないため、菊川はまんまと矢島として金庫破りの一味に潜り込むことに成功します。


金庫破りの面々はホテル大東に滞在しており、ジョージや松井の他にも、野見山(曽根晴美)、橋場玲子(佐久間良子)など名うての金庫破りが集っていました。彼等はカサブランカの地下室から、向いの平和経済会の地下に向って穴を掘り、大金庫から20億円もの現金を奪う仕事を、一人当り5000万円の分け前で請け負います。


菊川は一味に元刑事の手塚(丹波哲郎)がいることに驚きます。彼は胸を患っている上、妻に逃げられ、自暴自棄の生活を送っていました。そこに目をつけた菅沼から、大岡組の経営するキャバレー・カサブランカを一週間借りきる仕事が持ち込まれ、大岡(沢彰謙)に店をあけ渡す誓約書を強引に書かせる仕事をやり遂げたばかりでした。菊川は手塚に自分の正体を明かさないよう頼み、手塚もそのことを承知します。


ところが、尾形刑事の連絡係の三郎(小川守)が見つかり、捜査をしていた岩下刑事(梅宮辰夫)と共に、菅沼に射殺されてしまいます。尾形刑事と連絡を取りたい菊川は、ホテルのボーイに尾形宛のメモを渡そうとしますが失敗し、手塚と共に菅沼から疑われる羽目になります。手塚の部屋からメモは出て来なかったものの、二人に関する監視は厳しくなります。一方、店を明け渡すことになった大岡は、裏があると察知し、部下に手塚の周辺を探らせていました。それぞれの思惑が錯綜する中、現金強奪の実行の日がやって来きます。


チームによる泥棒映画は、実行中のサスペンスも然ることながら、準備段階において障害となるものを取り除いていく描写も見どころのひとつとなります。この映画では菊川が潜入捜査官の役割を負っている性格上、集団による綿密な現金強奪計画の準備をするよりも、菊川個人が本物の矢島を計画から排除すること、矢島になりすますこと、現金強奪の日時と場所を警察に知らせる方法が重要となります。


石井輝男監督は、鶴田浩二以外の役者に関して、極力感情を抑える芝居をさせることによって、親友を殺した人物への復讐がより鮮明になり、テンポの良い演出と相まって、計画犯罪を題材とするケイパーものの面白さを際立たせています。


作品の面白さを十分認めた上で、敢えて難点を指摘すれば、計画を実行に移してからのサスペンスが若干物足りないのが残念。赤外線を避けるため、テープを使うアイデアはなかなか面白いですが、総じてハラハラドキドキ感が薄いです。また、店を明け渡した大岡が、カサブランカを菅沼たちが借り切ったことを怪しむのは予想されたことで、その件に何の対策も講じていないのは、犯罪者としては脇が甘いです。


更に、杉浦直樹は「暗黒街の顔役十一人のギャング」のようなリーダーの片腕的存在は似合いますが、金庫破りの集団をまとめるリーダー格としては、些か線が細い気がします。むしろこの役には、丹波哲郎が相応しかったように思います。とは言うものの、実行までの過程部分に見どころはいっぱいあるし、堅気になった前科者が、犯罪を阻止する側に回って、復讐を遂げる構図は珍しいので、一見の価値はあります。



ケイズシネマ


薩チャン正ちゃん 戦後民主的独立プロ奮戦記


薩ちゃん正ちゃん~戦後民主的独立プロ奮戦記


チラシより

1950年代。大手映画会社との労働争議で解雇された映画人たちは、自ら“独立プロ”を起し、大衆が望む真の映画を作り始める。戦後70年。今こそもう一度見据えたい、珠玉の作品群と闘う映画人たちの軌跡。


製作:「薩ちゃん正ちゃん~戦後民主的独立プロ奮戦記~」委員会

監督・脚本:池田博穂

撮影:野間健

音楽:小林洋平

出演:早乙女勝元 山田洋次 高部鐵也 宮古とく子

    香川京子 山本圭 降旗康男 高橋エミ 劉文兵

2015年8月29日公開


東宝争議に端を発し、東宝から解雇された人々、赤狩りによって映画会社から追放された人々を中心に、企業に頼らず本当に撮りたい映画を作るために立ち上げたのが、独立プロダクションの始まりでした。独立プロ誕生のきっかけが労働争議だっただけに、独立プロが製作する映画の内容も、反体制色が濃く出るのは自然の成り行きでしょう。


山本薩夫監督は東宝争議の解決金で、埼玉県で起きた暴力団による新聞記者の暴力事件を題材にした「暴力の街」を製作し、撮影中にも暴力団から嫌がらせを受けながら完成させています。今井正監督も日雇い労働者の苦闘を描いた「どっこい生きてる」を撮り、タイトル通りに大手の映画会社から離れても、作品を作り続ける映画人の気概を見せます。ただし、二人とも独立プロで映画を作っている間は、資金面での苦労が絶えず、無料奉仕も珍しくはありませんでした。


降旗康男監督の証言によれば、東映では外部から招聘された監督の報酬は東映専属の監督よりも高く、その分新人監督や助監督から反撥があった反面、独立プロから来た監督の撮影現場では学ぶべき点も多く、降旗監督自身が腐っていた時期に、彼らと接したことで救われたと語っています。


エピソードも多彩に織り込まれており、山本監督と今井監督が掴み合いの喧嘩をしたこと、「キクとイサム」の高橋エミの起用を今井監督が渋り、脚本の水木洋子が翻したことなど、興味深い話が聴けます。中でも、今井監督の画面が綺麗すぎるという理由で完成していた映画を最初から撮り直す話は、黒澤明監督以上の剛腕ぶりに驚愕します。今井監督は絵コンテを書かずに撮影に入るため、そのような事態になったらしいのですが、逆に最初に完成した映像を観てみたくなります。


本作の公開と共に、独立プロ映画の特集上映も行われましたが、私は1本も観られませんでした。「真空地帯」や、まだ記事にしていない「雲ながるる果てに」は昨年夏に新文芸坐で観ています。「キクとイサム」は今年になって神保町シアターで上映されましたが、その時に鑑賞しなかったのが悔やまれます。いずれ機会があれば観たいです。