切ない別れと再会 「シェルブールの雨傘」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ 新・午前十時の映画祭 より


シェルブールの雨傘


製作:フランス

監督・脚本:ジャック・ドゥミー

撮影:ジャン・ラビエ

音楽:ミシェル・ルグラン

出演:カトリーヌ・ドヌーヴ ニーノ・カステルヌオーボ マルク・ミシェル

    アンヌ・ヴェルノン エレン・ファルナー ミレーユ・ペレー アンドレ・ウォルフ

1964年10月4日公開


港町シェルブールに住む20歳の自動車整備工・ギィ(ニーノ・カステルヌオーボ)と17歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は結婚を誓い合った恋人同士でしたがギィには病身の伯母エリーズ(ミレーユ・ペレー)ジュヌヴィエーヴにはシェルブール雨傘店を営む母エムリ夫人(アンヌ・ヴェルノン)がいて、結婚の障害となっていましたある日、ギィに召集令状が届き、2年間の兵役をつとめることになります彼は幼馴染みのマドレーヌ(エレン・ファルナー)に伯母の世話を頼み、シェルブールを出発します


一方、エムリ夫人の経営する雨傘店は莫大な税金が納められなく、宝石類を売らなければならないほど追いつめられていました宝石店との交渉が難航する中、その場に居合わせたローラン・カサール(マルク・ミシェル)が助け舟を出してくれたおかげで、母娘は糊口をしのぐことができます


やがて、ジュヌヴィエーヴの妊娠が判明しますギィは自分が父親になることを喜ぶものの、アルジェリア戦争は激化し、彼からの手紙も途絶えがちになりますジュヌヴィエーヴを見初めたカサールは、彼女がギィの子供を宿していることを承知の上で求婚しますジュヌヴィエーヴはギィに心残りがありながらも、最終的にカサールの求婚を受け入れます母娘は店を処分した後、カサールと共にパリに移住します


その頃、足を負傷して除隊になったギィがシェルブールに帰ってきます彼はジュヌヴィエーヴの結婚を知らされ、ショックを受けます以前に働いていた自動車工場を辞め、荒れた生活を送るようになりますしかし、伯母の死をきっかけに、ギィは人生をやり直そうと決意します彼は伯母の遺産でガソリンスタンドを購入し、マドレーヌと結婚しますそれから数年後、マドレーヌと息子が買い物に行った後、ガソリンスタンドに1台の車が止まります車の中にはジュヌヴィエーヴと彼女の娘がいました


ミュージカルの本場アメリカに、フランスがカウンターパンチを食らわせた、ある意味痛快な作品全てのセリフを歌で表現した大胆な試みだけでなく、鮮やかな色使いの画面、深みを感じさせるドラマなど、アメリカのミュージカル映画とは一線を画していますミュージカルが苦手な私でも、全編を歌に統一してしまえば、セリフと歌の切り替えに違和感を覚えずに済みますまた、ミシェル・ルグランの音楽も素晴らしく、主題歌ひとつ取っても、各々の場面に合わせながら、様々なアレンジを施して聴かせています


かなり昔に観た映画ですが、思っていた以上に記憶から欠落している場面が多いのに驚きましたその一方で、若い頃に気づかなかった点も、今回再見したことによって明らかになりました最も顕著な点は、本作が悲恋物語であると同時に、ジュヌヴィエーヴとギィの成長物語でもあったことです17歳のジュヌヴィエーヴと20歳のギィの恋愛は大人からはママゴトのように見えます兵役前に避妊をせずにSEXしてしまうのは、あまりにも無防備で幼い行為のように思えますまた、ジュヌヴィエーヴには母親が、ギィには育ての親となる伯母がいて、それぞれの結びつきが強すぎて、独り立ちできていない状態


夢と現実の落差がある中、ギィが2年間の兵役を送ることによって状況が一変します二人が離ればなれになり、互いに試練が与えられるのです特にギィの子供を宿しているジュヌヴィエーヴには、様々な葛藤が生じますそれまで子供だったジュヌヴィエーヴも、現実と向き合わなければならなくなります彼女はカサールと結婚することによって、徐々に大人になっていきます


一方、兵役を終えて故郷に帰ってきたギィは、恋人が結婚したことを知らされ、自暴自棄になりますそして職場を辞め、荒んだ生活を送るようになりますしかし、伯母の死を契機に、従妹のマドレーヌを伴侶にしたことによって、ギィもまた大人への階段を一歩踏み出しますそして、親となった二人が再会し、大人の対応をしたことでわだかまりも霧消し、美しい思い出として実を結ぶのですそれぞれの道を歩みながらも、子供の名前から二人が結びついていることを示す演出も心憎いです


また、教会から出てきたジュヌヴィエーヴとカサールが車で去るところを、マドレーヌが見送ったり、娼婦を抱いて朝帰りしたギィが伯母の死を知らされたり、ジャック・ドゥミー監督はエモーショナルな場面を創出することによって、観客の胸を震わせます音楽が詩的なムードを盛り上げる一方で、色彩豊かな映像も心に残ります間違いなくミュージカル映画史に残る名作です。