レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -32ページ目

金木犀の香りにのせて

一週間程前の昼過ぎ。

のんびりと公園近くの喫茶店に向かっていた。

喫茶店の前まで来た時、風に乗って微かに甘い香りがした。

気を澄ますと、その香りは徐々に濃厚になる。

今年も金木犀の花が咲き出したんだなあと思う。

毎年思うのだけど、この金木犀の香りは、秋口のある日、突然、町中に漂い出す。

目に見えない何かが、あちこちの金木犀に、「時が来たよ」と、囁いてまわっているのかも知れない。

或いは、特殊な連絡網があるのかも知れない。

きっと、彼らには彼らの約束された世界があるのだろう。

金木犀の香りには、心をほぐしリラックスさせる効果があるのだとか。

気分が沈みがちになると言われる秋に、彼らは意図的にそんな香りを町中に漂わせているのかも知れない。

不思議なものだ。


いつ頃から金木犀の香りを意識し出したのか分からないが、その香りと共に様々な情景が浮かび上がる。

きっと、幼い頃からその香りと共にその情景を記憶し続けているのだと思う。

金木犀の香りは、僕には懐かしもあり寂しくもある。

ニオイの記憶なんて、あまり考えた事はなかったけど、

案外、読み書きの記憶よりしっかりしているのかも知れない。

きっと皆さんも、金木犀の香りと共に甦る想い出がおありだと思う。

秋は人恋しい季節だというが、僕は四季を通じて、何とも懐かしい想い出たちが、顔を出しては心の底に沈んでいく。

それが、精神衛生的に好ましいのか好ましくないのか、どうということもないのか分からない。

何とか懐かしい連中と連絡を取ることはできないかと思う事もある。

きっと、本気になれば、探し出せるのだろうけど・・・


何故か最近、実家近くにあった空き地や学校の校庭で、

笑いながら遊んでいる少年成穂堂の夢をよく見る。

大概、真夏の燦々と日が降り注ぐ空の下だ。

友だちもその当時のままだ。

日中、そんな事は思い出しもしないし、思い出せもしない。

人の脳というのは、思いもしない遠い昔の事を映像や声と共に記憶している。

それも多分、驚くほど鮮明で膨大な量を。

肝心な仕事の事は片っ端から忘れていくのに・・・



そんな夢を見た日は、

仕事の慌ただしさにその映像が掻き消されるまで、ひとしきり彼らを懐かしむ事になる。

金木犀の香りにのせて、そんな愚にもつかなぬ事をつらつらと考えている。

いくつになっても、あかんたれの自分がいる。