秋の夜長の妄想
秋の気配が町を包みはじめている。
昼の日差しはまだきついが、ジリジリと焼け付くようではない。
夕方の風は確実にやわらぎ、日暮れの訪れは、どこか赤みを帯びている。
そんな日暮れどきに店先の道路に立つと、長い影たちが違う世界に吸い込まれていくような妙な感覚を覚える。
それはまるで幻想の世界を垣間見ているようで、現実の輪郭を曖昧にする。
店内を見渡すと、棚に眠る品々が昼間とは少し違う表情をしている事に気がつく。
古いものには物怪が宿ると言うが、本当にそんな事があるような気がする。
店のシャッターを下ろし、店内の照明を落とす。
そうすると、ジリジリと染み入るように忍び寄っていた闇が、パチンと音を立てて一気に店内を覆い尽くす。
僕は一度照明を落とすと、あまり点けなおすという事をしない。
たいそうな理由はない。照明のスイッチを入れにいくのが、面倒なだけだ。
事務所を出て洗面トイレに向かう時、事務所から漏れる僅かな灯りを頼りに移動する。
判別出来るのは途中までだが、慣れたものだ。
そんな時、棚の向こうからこちらに向かってにじり寄ってくるような、妙な気配を感じる事がある。
物音がする訳ではない。
何かが襲いかかってくる訳でもない。
だけど、手を伸ばした先に彼らが居そうな気がする。
彼らは暗闇を歩く僕をみて、我が仲間ではないか?と、興味津々に様子をみているのかも知れない。
或いは、彼らの世界に引き摺り込んでやろうと、機を窺っているのかも知れない。
目に見えなくても存在するものは、たくさんある・・・父がよくそう言っていた。
灯りのついた事務所と漆黒の店内との間には、境界がある。
結界のようなものだが、彼らが不浄の生き物であるとは限らない。
僕の方が不浄の生き物であってもおかしくない。
お互い様という事か。
僕は毎晩、自分のテリトリーで、それなりに仕事らしき事をしている。
柱時計が午前零時を知らせ、ハッとして帰宅する事もある。
僕は物音一つしない所で作業をするより、多少雑音があった方が作業が捗る。
そんな事で、大概何かしら音楽を聴きながら仕事をしている。
ひょっとすると、彼らの聴力はとびっきり優れていて、そんなリズムに合わせて宙を舞うように踊っているのかも知れない。
時折、真っ暗な店内を覗き込んでみるが、そんな簡単に彼らは姿を現さない。
長い長い秋の夜長の妄想は続く。